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旧中筋家住宅 Ⅵ(茶室と長屋蔵)。

大広間の北の庭の西の片隅に位置する茶室。母屋のあちこちの部屋にも茶の湯を楽しむために炉は切られていますが、この建物は特に要人を迎えるためか独立して庭の片隅に建てられています。

造りは茶室の慣例に従って質素で風流。外観を見ただけでも、腰まで張った杉皮(たぶん?)、垂木に使っているかいふ丸太、上開きにつっかい棒で止める外開きの雨戸などから茶室としての特徴がうかがえます。瓦屋根なのは、母屋の建物との釣り合いと、そうはいっても格式が・・・という思いからなのでしょうか。室内も床造り、天井仕上げ、壁仕上げと風流は満ちています。

敷地の一番西側にあって、この住宅が付近一帯を束ねる大庄屋の建物であったことをよく印象づけるのは、厚い土塗り壁で仕上げられた長屋蔵です。今は展示用の農機具などを納めていますが、当時はこの倉に米俵が山積みになっていたのでしょう。

この建物には軒樋がありません。雨だれが落ちる位置には地面に側溝が造られていますが、これも石を丁寧に積み重ね、または敷きならべて造ったものです。日常の雨はこの溝に集まった後、ゆっくりと地面に浸み込んでいったのでしょう。大雨の時にはあふれたでしょうが、それはそれで許容したのだと思います。

私事で恐縮ですが、旧中筋家住宅の中に数ある蔵の中でも、私はこの長屋蔵が一番好きです。装飾の少ない土色そのままの壁の重厚感。低く深い軒先、骨太で基本に忠実な骨格、働く人々の息遣いが聞こえてきそうな生き生きとした風情がこの上もなく愛おしい。

現在ではほとんどの雨水が、予想雨量に従って計画されたコンクリート側溝に集められ、せっかくの天の恵みを一刻も早く海に流したい・・・と思わせるような造りになっています。しかし、高低差の多い日本の地形では、水は出来るだけゆっくり多くの土地をめぐるように配慮して、その間に地面を潤し森を造り、食べ物を作れるようにするべきです。

自然は往々にして人の計画を超えたところで大暴れします。我々も自然の一部であることを自覚し、征服しようと傲慢にならず、共に生きることの出来るうまい仕掛けを考えたいものです。