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私たちの仕事
Works

みどりの斜面に建つ平屋

住まい手インタビュー


コンセプトは、終の住処

もう六〇代!なんといっても、これまでの生活実感があります。社宅、実家……何軒かを、引っ越しを重ねながら自分たちが住んだり、両親のサポートに通ったりしました。看取った後の、遺品整理の大変さも経験しています。
考え方は、かなり合理的になりました。流行だからとかカッコイイという理由では、モノを欲しいと思わなくなりました。皆さんに必要でも、私たち夫婦に必要のないモノはいらない。30代まではモノが増える時代ですよね。子育てや仕事が落ち着く40代からは、モノを減らせるようになる。断捨離をして、最後の家では本当に必要なモノだけ残したシンプルな暮らしがしたいと思いました。自分の脳や体の衰えを直視した、年齢に相応しい生活を意識しました。

年間通して気温差がないのがいい

夫婦それぞれの部屋は、平屋の端と端へ離して配置していただきました。主人と私(奥さん)で、生活リズムが違うんです。私は就寝が早め。主人は夜に映画を見たりする時間を楽しみたいタイプ。昔ながらの田の字型の前の家では、映画や遅くの入浴・イビキなど、とにかく音と気配が気になって睡眠に差し障っていました。この歳になると寝不足はダイレクトに体調に響く……。部屋と動線をしっかり区分してもらって、主人は夜の趣味の時間を満喫でき、私は気兼ねなく朝の家事ができるようになりました。それぞれの生活がしっかり確保される部屋ができて、共同生活がより良くなったと実感しています。
動線のスムーズさも大事にしました。一番助かっているのが、買い物帰りです。勝手口の前に車を横付け。中へ荷物を直に運び込んで、パントリー、冷蔵庫へ食材をおさめて、キッチンからくつろぎのリビングへ……一本の動線の中で、荷物が片付きます。

あとは、年間通して気温差がないのがいいな……と。今はとにかく冷暖房いらずで、光熱費のかからない一年を過ごしてます。夏場で電気・ガスのトータルが月に一万円もいかないくらいかな。この家は建築中から、屋根の下にいると涼しくて。「夏はこんな感じになるよ」って、中村さん(所長)が教えてくださってたのが、実際その通りでした。
猛暑でも、窓を開けてお昼寝したら上掛けがいるくらい風が通ります。冬場は夕方の5時頃まで、南側の窓一面から、部屋の奥まで陽がさすんです。一日中ぽかぽかにあっためられるから、蓄える暖気がすごいんでしょうね。昼間のぬくもりがずーっと家中に広がっています。

『見える化』と余白

歳を重ねると、しまい込んだのを全部憶えておくのはムリです。「しまうのも、確認するのも、ワンアクション」を念頭に、扉と引き出しは控えて棚が中心のオープンな収納を心がけています。パントリーは、便利な場所に充分な容量で設けてもらいました。棚へは、一目で全てが見えるようにモノを並べています。「見える化」して、二重買いや賞味期限切れが減りました。重ねないことが、大事かもしれません。余裕のある収納は見栄えがいいし、取り出しやすい。

全体では、ロフトが役に立っています。プラン当時は「断捨離もしたし…」と余分に思ったのですが……。実際住んでみると、季節のインテリアなどを納める場所が必要でした。余白があるって、すごくいいですね。

ゆだねることが成功の秘訣

自分たちの集大成だから、理想を詰め込みたいっていう思い入れは大きかったです。実は雑誌の切り抜きや希望をずいぶん集めて、ファイルを作ってあったんです。家づくりの最初に中村さんにお渡ししたら、返してもらったのは完成後でした。結果的には、プラン中に手元になくて良かったです。ずっと手元にあったら、決定事項と比較して、一つ一つの細部の差異に拘らずにはいられなかったかも……。ひとまずは全体を一つのカタチにまとめて見せてくれたのが、成功の秘訣だったと思います。専門家は総合的に見て、最後の到達点までわかってるけど、素人にはわかりませんから。あっちのココと、こっちのコレを切り取って……ってパッチワークだけで、本当に一軒の家として成り立つかというと、違いますよね。まず図面を見ても、しっかりイメージできません。

最初に中村さんが描いてくれたスケッチが大好きで、今でも大事にとってあるんです。でも、それが図面になった段階でイメージは変わったし、工事が始まった段階でもまた随分ちがいました。平面から立体物を想像する訓練なんて受けてませんから。棟上げの時も、柱だけではどこまでがどの部屋だとか、どこが何になるのか、間取りがまったく掴めなかった。自分でもビックリしました。「こんな精度でしか、素人っていうのは把握できないもんなんやな」って。ああ、ここが自分の部屋で。この部屋のここにテーブルを置いて、ソファを置いて……って、やっとちゃんとわかってきたのは、引き渡し間際になってからでした。「あ。本当に、素敵な家ができてきた」って、はじめて自分の家のイメージに実感が湧いたんです。

素敵なオマケ

リビングのテーブルにつくと、春は勝手口から山桜がよく見えるんです。毎朝洗濯物を干しにデッキへ出ると、海が見えます。こんなにキレイな山桜や海が見えるなんて、住みはじめるまで知りませんでした。建物の高さ感覚がなかったから、家の中からの景色が特に想定になかったんですよね。一番落ち着いて過ごす場所から、のんびり眺められるのは、思いがけないオマケでした。夏はキッチンで夕飯を作る時間、正面に夕日が沈みます。あんまりキレイで、しばし手を止めて見送ったり。こんなに外の景色を見て過ごせるなんて思っていませんでした。

土地は一緒に探してもらいました。途中で中村さんが「ここが一番、良いと思う」って仰るんです。見て回った中で、たしかになんだかここが一番、空が近いような感じがしました。この敷地は当初からなだらかに傾斜があって、芝生に覆われていました。「擁壁でガチガチに地面を作るような家づくりじゃなくて、この優しい地形にそのまま家を乗せたいねぇ」って中村さんから提案があって、それはもうまったく私たちの希望とぴったりでした。

平屋なんですけど、床下の基礎部分に高さがあるので、景色は2階相当からの眺めになります。見晴らしがいいし、通りからの人目は気にならない。こういう床下の高い平屋は私たちの引き出しにはありませんから、この暮らし方は中村さんからのギフトです。四季を過ごしてみて、土地も家もしっくりきています。夜にお風呂で足を伸ばして湯船につかると「はぁ、しあわせ・・・」ってため息がでるんです。24時間が、本当に充実しています。 (インタビュアー:中村祐子)

建物データ
所在
和歌山県田辺市
竣工
平成29年9月
構造・規模
木造平屋建 / 民家型構法
主要用途
専用住宅
敷地面積
385㎡(116坪)
建築面積
122㎡(37坪)
延床面積
105㎡(32坪)
床面積
105㎡(32坪)