本文までスキップする

読みもの
Article

設計の軌跡~4:構造~

カテゴリ
タグ

    府中の家を例に、住宅を新築する場合の設計の進め方をおおまかに追っていくシリーズです。

    4本目は建物を構成する木の刻み方や木組みを考えます。

    いよいよ大詰め

    【構造を考える】

    用意する木の刻み方や木組みを考えて、家の骨組みを計画する段階です。最終的には、構造材だけでなく、化粧材も含めた建物を構成する全ての部材のあり方まで決めていきます。基礎・床下・梁・小屋などのそれぞれを伏図の形でスケッチします。

    基礎や梁組などの詳細を考えることも設計者の仕事で、木の家を造っていくときの醍醐味でありやりがいであると思っています。

     

    【基礎伏図】

    基礎は阪神大震災以来、考え方や取り組みが特に大きく変わってきたところです。

    これまでは外周部に給気のガラリ(400×200程度のもの)が付いていましたし、内部の人通口は、どこか1ヶ所から床下に潜ると隅々まで行き来が出来るようになっていました。もちろん鉄筋も少なめでしたし、スラブ(土間床)もそんなに大事にされてきませんでした。
    これらの基礎が軒並み破壊されてしまったために、このところの基礎は、地中梁と見なされる外周部に給気口のような開口部がなくなりましたし、スラブもベタ基礎と言って床全体に配筋されてしっかりと造られています。メリットは全体にしっかりとすること、デメリットは床にいくつかの点検口が必要なこと、全体に高額になったことなど。
    今回の基礎はそこからさらに進化させて、地中梁と見なされる基礎立ち上がりをスラブ下で構成し、立ち上がりの開口を自由にし、床下の通風を思い切り確保して、木材の腐食を抑制すると共に後のメンテの容易な基礎としました。万が一の洪水などの場合にも、床下に入った水はスムーズに排出されるので安心で手間いらずです。

    【床伏図】

    床伏図は床下の土台や大引きなどについて示す図面です。
    基本、土台は桧の正角(正方形の材料)大引きは杉の正角で造ります。

    基礎廻りで気になるのはシロアリについてのこと。シロアリは水がなければ生きられず、土がなければ巣が出来ないので、人間にも影響があるような防虫剤は使わず、徹底的な床下通風と芯持ちの国産材(龍神材)で対応します。住宅金融公庫の決め事でも、芯持ちの国産材は防虫処理した外国産材と同等の防虫効果が認められています。使う薬は木酢液程度。床下通風を思い切り取ると心配になるのは断熱のこと。そこで、Jパネル(国産の杉3層パネル)を土台・大引きの上に直に下張りして、断熱・気密の性能を高めます。断熱材はその上に30ミリと40ミリの床用断熱材を2重に敷き込んで対応します。断熱材スペースは設備の配管スペースも兼ねますので、外部から防虫網を通して見えることになる床下は、想像するよりスッキリと整理できるだろうと思っています。

    【梁伏図】
    梁伏図は柱と梁の組み方や部材の仕様・寸法などを示すための図面です。

    この図面が私的には計画していて一番楽しい。どの梁をどのように組んでどのように見せる、どの柱を見せてどの柱を隠す。そうするためにはどんな工夫が必要なのか・・・木の家のデザインに直結する項目を、あれやこれやと考えながら決めていくのは設計者冥利に尽きるというものです。
    府中の家では内部に見える梁・柱・タルキなどの類をすくなくし、古民家風から少し離れてスッキリとまとめています。あまりスッキリしすぎると木の家らしさがそこなわれてしまいがちですから、そこの加減が難しい。もちろん真っ直ぐの天井は造りません。屋根勾配を利用して、あるところはロフトとして、あるところは空間の広がりとして利用します。
    ロフトは天井高が1,400ミリ以下と決められていますから、構造材の組み方を工夫して、高すぎず低すぎずの頃合いのところを探らねばなりません。そうするとここのところがこうなってああなって・・・構造材だけでなく、化粧材も含めた建物を構成する全ての部材のあり方が粗方この時点できまり、各部のデザインも固まっていきます。

    【小屋伏図】
    小屋伏図は屋根面を構成する構造材の配置・樹種・寸法などを示す図面。梁(梁伏図)のさらに上部の木組みのことです。この図面にはタルキや野地板の詳細まで描き込みます。
    府中の家では、高さが120ミリのタルキを使って1.5間を飛ばし、その空間に120ミリ厚の断熱材を仕込みたいと思っています。タルキ上の野地板は杉板を斜めに張って、力を分担できる耐震面を造ります。斜め張りは真横に真っ直ぐ張る野地板に対して約1.6倍の強さを発揮します。構造上は壁のみで外力を負担するより、屋根面にも耐力を負担できる部分があるのは非常に大事なことです。
    野地板の上には通気層。屋根面は暖まりやすいので、屋根面の通気層は非常に通気効果の高い通気層になります。この部分の空気の動きで、外壁面の通気層の空気を動かし、外壁内の湿気を吸い出す仕掛けです。
    外部の軒先には、木の家と意識しやすいようにタルキを化粧で見せていくつもりですが、部屋内では断熱・通気・調湿などの性能を優先して化粧の天井をタルキ下に張り上げます。天井面(屋根面)は断熱材を上下2枚の杉板で挟んだ形になりますので、断熱性能・調湿性能の高い仕様だと言えるでしょう。

     

    この他、家具・建具、照明や電気設備、給排水や外構の計画などを経て、新築一軒分の図面製作に必要な情報が揃います

    家づくりには多くの要素があり、建築家は大量の情報を総合的に判断しつつ、ひとつの建物を形作っていきます。性能面とコストのバランスをとりつつメリハリのきいた予算配分をするためにも、コンセプトや希望について、初期によく情報を共有できていることが充実の家づくりのポイントかもしれません。

    カテゴリ
    タグ