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『天然乾燥と人工乾燥のどっちが良いのか』問題

天然乾燥と人工(高温)乾燥。という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
木は山に植えてあるときは内部にたくさんの水を蓄えています。
山から切り出した木を木材として使えるようにするには、内部の水分を抜いて、十分に乾かして強度を確保しなければなりません。
その乾燥の方法が天然乾燥と人工(高温)乾燥です。

天然乾燥と人工(高温)乾燥の違い

天然乾燥と人工(高温)乾燥の特徴はそれぞれ、

天然乾燥材

  1. 外部に割れが生じる
  2. 背割りが必要
  3. 粘りのある破壊形式
  4. 材質自体の色が落ちない
  5. 匂いが落ちない
  6. 乾燥に時間がかかる
  7. 材によってバラツキが出やすい

人工(高温)乾燥材

  1. 内部に割れが生じる(表面に割れが出にくい)
  2. 脆性破壊の危険
  3. 表面の色が焼ける
  4. 匂いが薄くなる
  5. 乾燥に時間がかからない
  6. 材によって捻れや狂いといったバラツキが少ない

といった所でしょうか。
上記の様なメリット・デメリットを考慮し、中村設計ではほとんどの物件で龍神の天然乾燥材を採用しています。
見学会などでも『いい香りの家やなぁ』と言っていた頂く機会も多く、 『 天然乾燥材の匂いは高温乾燥材よりも残っている』という実感を個人として持っていました。
そんな天然乾燥と人工(高温)乾燥の材による嗅覚刺激について、興味深い研究をご紹介します。
大雑把に言うと、天然乾燥したヒノキと人工(高温)乾燥したヒノキをチップにして人に匂いをかいでもらったら天然乾燥したヒノキの方が主観的にも生理的にも良い結果が出たよ。という研究です。

『天然乾燥材と人工(高温)乾燥材の匂い』による人への影響

用意した材料は2種類

  • 天然乾燥材:熊本産のヒノキ 心材、天然乾燥:45ヶ月
  • 人工(高温)乾燥材:熊本産のヒノキ 心材、水蒸気加熱乾燥:120時間(5日間)上記2種のサンプルを木材チップに加工し、室温で真空パック保存し、実験日の朝に開封。

実験方法

  • 相対湿度50%、照度:10ルクス、室温:25℃の人工環境を準備
  • 女子大生19名に対して実験を実施
  • 目を閉じて鼻の下10cmから匂いを90秒間嗅いでもらう
  • 2つの刺激をランダムに被験者に提供
  • 生理的効果は浜松ホトニクスの 『 時間分解分光システム TRS-20』にて左右前頭前野の酸素飽和度を計測
  • 主観的効果は修正SD法にて計測(平たく言えばアンケート)

結果

それぞれの計測結果はこのようになりました。

生理的反応

  • 人工(高温)乾燥の木材チップの吸入中は左右前頭前野中のヘモグロビンにおける酸素飽和度は変化しなかった
  • 天然乾燥の木材チップの吸入中は 左右前頭前野中のヘモグロビンにおける酸素飽和度は有意に低下

主観的反応(修正SD法にて計測)

  • 人工(高温)乾燥の木材チップ については『何も感じない』~ 『やや自然』
  • 天然乾燥の木材チップについては『やや自然』~『ほどよく自然』
  • 『 快適と感じるか』や『リラックスしているように感じるか』といった問いについては有意な差は見られなかった。

匂い(嗅覚刺激)については天然乾燥の圧勝

この研究から分かることは、天然乾燥と人工(高温)乾燥の桧木材チップの匂いを嗅いだ場合、
天然乾燥の方は【主観的に自然な感じがするし、無意識に体も反応している】という事です。
それに対して、人工(高温)乾燥の方は【なんかちょっと自然な感じはするが、体的には(正確にいえば、この実験で用いた指標では)有意な変化が起こっていない】、という結果に・・・。
つまり、匂い(嗅覚刺激)については天然乾燥の圧勝といって良い結果です。
前頭前野における酸素飽和度の減少は『脳活動の鎮静化』が確認できたということでしょう。
わざわざ木材をチップにしたのは、今回の試験の性格上、表面積を増やしてより桧の匂いをわかりやすくするためだと予想。
研究の序文で天然由来成分の生理学的なリラックス効果について言及しているので、最終的な着地点はそこでしょう。
なんとなくヒノキの匂いを嗅いで落ち着くなぁ、、と感じていたことに根拠がついてくると、設計者としては少し安心。
匂いについては、天然乾燥を採用した方が木本来の良さを生かせそうです。
(その分、扱いは難しいのですが・・・)
前頭前野は現代人が最も酷使しているといわれている脳の部分です。
天然乾燥材のヒノキを用いた家に住んでいれば、家に帰ってくれば自然とリラックス出来る可能性が高そうです。

参考文献

  • Harumi Ikei,Chorong Song,Juyoung Lee,Yoshifumi Miyazaki(2012)
  • Comparison of the effects of olfactory stimulation by air-dried and high-temperature-dried wood chips of hinoki cypress (Chamaecyparis obtusa) on prefrontal cortex activity.
  • Journal of Wood Science  ( October 2015, Volume 61, Issue 5, pp 537–540 )