本文までスキップする

読みもの
Article

木の家工房Mo-ku WEB内覧会 外観とアプローチ

木の家工房Mo-kuは12年ほど前に和歌山市にオープンした中村伸吾建築設計室のギャラリーです。木・土・石・紙といった自然素材を生かした木の家の設計監理、古民家の再生・リノベーションの仕事を得意とする中村伸吾建築設計室の窓口として、これまでたくさんのお客様を迎え、木の家のサンプルとして見学頂く機会を得たのと同時に、木の家振興のための数々の催しを行ってきました。訪れた方々からは、プランが面白い、空間構成が楽しげ、木の香りが気持ち良い、造り付けの木の家具が良い・・・などと好評を頂いてきましたが、このところはコロナ禍の影響を受け少しさみしい思いをしています。世の中がすっかり落ち着いて、又賑わいが戻るまでの間、今回から何回かにわけて、WEB内覧会と称してせめて各部のご紹介をしていきたいと思います。初回は外観と玄関アプローチです。

 

・外観と石積み
Mo-kuの外壁でまず目につくのはやはり黒い板壁部分でしょうか。黒い部分は焼杉板の南京下見板張りという張り方で、下から順に重ねるように板を張り上げていく張り方です。雨に強く、台風被害が多い和歌山県では昔からよく採用されています。海沿いの特別雨風が強い地域では縦に板を張り、目地を目板と呼ばれる細い板で塞いだ目板張りも採用されています。どちらも湿気を板の伸び縮みで調整出来ることが特徴で、木の家に適した張り方です。

焼杉板には焼きの具合によって幾つか種類があり、Mo-kuでは表面の炭化の具合が少ない種類の板を採用しています。表面の炭化の具合が少ない板を採用してわかったのは、やはり焼杉は表面をしっかりと炭化するまで焼いたものの方が耐候性に優れる・・・ということです。今では焼杉板を採用する際にはしっかりと表面が炭化したものをおすすめしています。至る所に県産材を使いたいスーパーローカル主義の私には残念なことに、和歌山では現在焼き杉板を商品として用意している所がなくなりました。この板は四国から仕入れたものです。
ギャラリー棟(写真右側の棟) 1階部分の塗り壁のように見える外壁はサイディングに吹付塗装を施した仕上で、のっぺりとした質感にならないように試行錯誤を重ねた上に選んだ組み合わせで仕上げています。
建物の形式としては、敷地の勾配と空間の用途を勘案し、それぞれのフロアが半階分の高さでつながるスキップフロア形式を採用しています。通常の住宅では1階分の高さで1階と2階を分けているところを、1階と2階の間に中2階を挟んでいるので、半階分の階段で空間がつながり、変化に富んだ空間構成となります。Mo-kuの場合は写真左側の事務所棟が中2階に該当します。スキップフロア形式とする場合には接続部分の剛性(硬さ)が重要となるので、構造的な検討をしっかりと行う必要があります。

玄関アプローチでは壁、階段ともに錆御影石を採用しています。錆御影石とは黄色い色味の花崗岩のことです。砂岩や大理石とは違って硬い石なので、階段や床に使用するには適した石です。壁に使っている石材と階段に使用している石材は同じ錆御影石ですが、壁に使っている方はコブ出し仕上げとしてより粗い印象になるように仕上げています。石は厚みが命です。出来るだけ厚みを感じさせるように使用するのが上手い使い方と言えるでしょう。
同じ石でも産地や産出時期が違えば色味などの風合いが変わります。石ごとに少しずつ個体差があるのは天然石材の面白いところです。さらに、仕上げ方が違えば、同じ石でも違う表情になるので、なおさら面白かったりします。Mo-kuでは壁は凸凹優先で厚みを強調し、階段は実用優先として、それぞれの仕上げの選択をしました。

玄関扉の正面に敷かれているのが沓ズリ石です。一般の事務所建築では、塩ビ製のものやステンレス製やアルミ製のものが採用されることが多いのですが、Mo-kuでは自然素材に拘って石を採用しています。内部の土間に入る直前に、ここで靴の裏をこすり、汚れを落としてから室内にはいります。 訪問者の皆様にメインの入り口の位置を暗示することも沓ズリ石の役割です。
石の種類は階段や腰壁と同じ花崗岩ですが、ここでは他と少し色味を違えて白御影を選択しています。表面も比較的平らで表面にあまり凹凸のないビシャン仕上げを採用し、平らな土間との間にできるだけ段差がでない仕様としています。
石の仕上については『割肌』『コブだし』『こだたき』『ジェットバーナー』『ビシャン』『磨き』『鋸目』などのたくさんの種類がありますが、石の種類や表面の仕上具合によって適正や得られる印象が違うため、ひとつの物件内でも場所によって仕上を適宜指定しています。

 

・階段と割栗石
階段は幅50センチ、奥行き25センチ、厚み6センチの錆御影石を『こだたき』という職人がノミでたたき出した少し粗めの仕上で使っています。石の表面に陰影が出て厚みや本物感が良く表現出来るうえに、割り肌やコブダシの仕上げよりは凹凸が少なく歩きやすいため、框や段鼻、階段の段石としてよく使う材料です。
幅の50センチをそのまま踏み面の奥行きとして使用しているため、通常の階段よりは随分と勾配が緩く、上り下りのしやすい階段となっています。
階段の両脇には大きいめの荒々しい石を並べました。この石は割栗石といい、基礎の下などの大きな力が加わるところで、地盤に建物の荷重を伝えるためなどに使われていた、通常あまり表に出てこない裏方の石でした。最近では土木工事で使われる蛇籠(ジャカゴ)などに入れて、造園などの外構工事部材としても使われている石です。形も大きさもまちまち。しかし、本物にしかない質感が全体の様子と良くマッチして良い仕事をしています。

割栗石の表面の質感は砂利と似ていますが、色にバラツキがあります。大きさも砂利と比べると一目瞭然で大きく、荒々しい質感を出したい時に採用します。色については産地や調達時期によってかなり違いがあることもあり、割栗石を採用する場合は必ず、今産出されている石はどんなものなのか事前に確認を行うようにしています。

 

・玄関アプローチ天井
アプローチの天井を見上げると、赤い天井が見えます。天井の下地は『Jパネル』という杉を3層に重ねたパネルです。このパネルはそのまま仕上げとしても使えますが、本来は床の剛性を確保するための構造部材です。梁の間に直貼りし、決められた釘を決められたピッチで施工すると、火打ち梁を入れたときの2倍を超える優れた床剛性を発揮します。構造用合板を使用したのでは合板内にあるノリの層が本来の木の性質の良いところをスポイルしてしまったり、化学物質の発散が気になったりしますが、Jパネルではそのようなこともなく、仕上げ材としても使えるので重宝しています。
屋内の隠れてしまう床にも同じJパネルを使っていますが、見えるように使われているところではリボスという屋外用の天然塗料で仕上げました。この塗料はドイツ製で、人間には全く悪い影響を与えません。木の家は木に拘るあまりに色調が単調になりがちですので、Mo-kuでは少し思い切った色(赤)を採用しました。

色は弁柄などの染料に代表される日本古来の朱色で、日本建築ではよく使用されており、木部の色との相性は良さそうです。Jパネルは板材で仕上げたような表面の質感を持ちつつ、板材を一枚ずつ張っていくよりも施工性にも優れます。ただ、価格面で板材よりは高かったりするので、設計時に必要な床の剛性(硬さ)や要求される性能、施工者の得手・不得手を勘案し、採用・不採用を決めていくことが大切です。

 

・車庫
木の家工房Mo-kuの車庫はとっても特徴的です。敷地全体にあるゆっくりとした勾配と、土間ギャラリー部分の階高と車庫に必要になる階高の差を利用して、上に中二階形式の居室を設けました。車庫そのものの天井高は必要最小限の2,200ミリほどです。

中2階の床は車庫の奥行き寸法より半間ほどオーバーハングしています。その部分の荷重は、大きな床梁でキャンチ(持ち出し梁)形式で支えていますが、2階ベランダ手すりの親柱を兼ねた斜め柱を、キャンチ梁を両側から挟み込んで1階まで延ばすことで荷重負担の補助としました。1階のハサミ柱と反対方向に斜めに伸びる柱は壁筋交いを兼ねています。それで足りない壁耐力は、さらにステンレスのコボット筋交いをキャンチ梁の下側に設置することで補っています。 車庫廻りのこのような柱・梁組は建物に動きを与え、若々しい印象を与えていると思います。