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旧中筋家住宅 Ⅳ(木地の間と西の庭)。

表座敷(上の間)のすぐ北側隣に位置するのが木地の間です。当初、木地の間という室名が意味するところが分かりませんでしたが、この部屋に入ってよくよくあたりを見渡してみると少しずつ分かってきました。

旧中筋家住宅の室内の木部はほとんど煤弁柄(すすべんがら)塗りで、色調を落として格調高く落ち着いた仕上げとなっているのに、この部屋だけその塗りがないのです。何も塗らず、木材の木地そのままで仕上げているから木地の間なのです。(写真は隣の仏間から撮ったもの、奥の木地の間の木部があまり写っていないのは誠に申し訳ない)

なぜ煤弁柄(すすべんがら)塗りで格調高く仕上げていないのでしょう?実はこの部屋は当主の居室として使われていた部屋。仕事や接客などの公務から少し離れて、重荷から解放されてやっと一息ついて自分に戻れる部屋だったのです。だから木部は何の飾り気もないありのままの白木仕上げ。そうして気持ちのバランスをとった部屋だったのでしょう。ほっとした気持ちで茶の湯などもたしなめるように床には炉も切っています。その気持ち、何となく分かるような気がします。

ただし、部屋の造りそのものには力を抜いていません。色付けはしていませんが、天井はきれいなスギの柾目板を張った竿縁天井、壁土には落ち着きを持たせた配色としています。

木地の間の北側には小さな西の庭があります。(奥にみえるのが木地の間です)この庭はお客様をもてなす表座敷(上の間)から一望できる南の庭とは性格を異にし、驚きよりも落ち着き、華やかよりも質素を本分として出来ています。

畳6畳ほどの小さな庭では、花崗岩の手洗い鉢の周りに陰の木々を植え込み、小ぶりな青石をあしらって、張り詰めた日常に安らぎを与えられるようにしつらえられています。また、この庭は大玄関で迎えられた要人の方々が、大広間へ案内される途中にも位置していて、格式高い部屋をいくつも通ってきた方々に、一瞬のみどり空間を体験させることで、緊張を和らげる効果もあったのだろう・・・と考えられます。