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旧中筋家住宅 Ⅱ(土間と台所)。

(和歌山市の文化財 旧中筋家資料より)

見学順路に従って進んでいくと、主屋で最初に入ったところが土間でした。土間の奥には台所が続いていますが、現在の感覚でいうと、土間と呼ばれているところが台所、台所と呼ばれているところが食堂・・・みたいな感じでしょうか。

土間では、まずはその広さに驚かされます。30畳を超えるこの土間では、中筋家の方々と、30人を超えるといわれた使用人たちの食事も作っていたそうです。カマドの焚口は5つ。土間そのものの広さといい、焚口の多さといい旧中筋家の栄華のほどがうかがえます。奥にみえるのは井戸屋形。全国を探しても、屋内に井戸を持つ形式の屋敷は数件にも満たないのだそうです。

その場の広さとともに、大空間を支える梁組の立派さにも驚かされます。末口(丸太の細い方)で45センチほどもありそうな丸太の上にはさらに母屋受けの梁材が縦横に掛かり、見るも見事な架構が構成されています。

天井がなく、構造体がそのまま見える意匠となっているのは、カマドの排煙を屋外に出す煙突などの設備がなかったからです。屋根形状そのままの高い天井は炊事の煙を集め、ひもで開け閉めする形式の高窓から排出される仕組みです。

台所(食堂)は土間(台所)の隣の間。今はこの建物の建築模型が置かれている12畳を超えるこの畳の間で、ご家族が食事をしたのでしょう。間仕切りはすべて紙障子、北側は中庭に向かって開かれています。

天井は古民家でみられる力天(りきてん)と呼ばれる、梁材に直接厚板を張ったような形式です。もしかしたらこの天井の上は、どこかから上がれて、物入れのような用途に使われていたのかもしれません。

台所の奥には納戸と居間。こんなに大きな家ではありますが、通常は台所と納戸と居間の3室がご家族の生活空間であったようです。特殊な用途の部屋をのぞいては、どの部屋も掃き出しの建具で屋外に向かって開け放たれ、外部空間と馴染みよくつながっているのは、この地の気候風土とうまく付き合ってきた日本建築の良いところです。