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軒の出と雨漏りの関係

夏や冬の日射制御に活躍する軒の出ですが、今回は軒の出と雨漏りとの密接な関係についてご紹介します。

瑕疵保険事故における雨漏りの割合

2009年以降、新築住宅を供給する事業者には引き渡し後10年以内の瑕疵の補修等が確実に行われるよう、保険や供託などへの加入が義務づけられました。
今年で約10年になりますが、瑕疵担保保険を提供する大手住宅瑕疵担保責任法人である日本住宅保証検査機構(JIO)の調査報告によると、新築住宅の瑕疵保険事故の94%が雨漏りであることが報告されています。
(瑕疵担保保険では保険適用が必要な物件を事故物件と定義しています。)

他の大手住宅瑕疵担保責任法人における調査報告においても、新築住宅の瑕疵事故の9割以上が雨漏りであることが報告されています。
瑕疵担保保険の対象となる部分は『構造耐力上主要な部分』と『雨水の浸入を防止する部分』の2つに大別されますが、実際に発生している瑕疵のほとんどが『雨水の浸入を防止する部分』に該当しているとは驚きです。
9割以上といわれると、感覚的にはほとんどすべて雨漏りだと言われているに等しいですね。

軒の出の定義

今回は軒の出と雨漏りの関係についてのお話しですので、まず軒の出の定義を明確にしておきます。日本住宅保証検査機構(JIO)では軒の出の定義を

軒方向:柱芯から250mm
ケラバ方向:柱芯から150mm

としています。
軒方向、ケラバ方向、という呼び方が少しわかりづらいのですが、一般的に垂木が流れていく方向を軒方向、軒方向に直交する方向をケラバ方向と呼んでいます。

▲軒方向とケラバ方向

極端な例ですが、軒の出がある建物と軒の出がない建物はこんな感じと思って頂ければよいかと思います。

▲軒の出の有無

屋根が壁からほとんど出ていないのが、『軒の出のない建物』。屋根が壁から出ているのが『軒の出のある建物』です。
軒の出の有無は切妻であるとか、片流れであるとかに左右されません。切妻でも『軒の出のない建物』はありますし、片流れで『軒の出のある建物』もあります。また、『軒方向は軒の出があって、ケラバ方向は軒の出がない建物』というパターンもあります。

▲方向と軒の出

軒の出の有無と雨漏りリスク

軒方向、ケラバ方向についてこれらの基準(軒方向:柱芯から250mm以上、ケラバ方向:柱芯から150mm以上)を満たす箇所を『軒の出のある箇所』、基準を満たさない箇所を『軒の出のない箇所』とし、日本住宅保証検査機構(JIO)が保険金の支払いを認めた雨漏り案件を対象に調査を行ったところ、調査結果は以下の様になりました。

雨漏り発生箇所の72%が『軒の出のない箇所』、28%が『軒の出のある箇所』で発生しています。
つまり、『軒の出のない箇所』は『軒の出のある箇所』に比べて雨漏りリスクが約2.5倍になっていることが分かります。
これはあくまで上記の最低基準を基準とした場合ですので、軒の出がさらに長く出ている場合などは、これよりもさらに雨漏りリスクは低くなっていると考えられます。 
また、国土交通省 国土技術政策総合研究所の調査報告においても軒の出の極端に小さい建物の雨漏りリスクに関する可能性が示唆されています。

わが国では長期間にわたる梅雨や、秋の台風があるため、軒やけらばの出が少ないと屋根と外壁との取り合い部から雨水浸入するリスクが高くなります。最近は、軒の出などがほとんど無い、いわゆる「軒ゼロ」住宅が存在し、外壁との取り合い部から雨漏りする事例が報告されています。
 
「木造住宅の耐久性向上に 関わる建物外皮の構造・仕様とその評価に関する研究」(国土交通省 国土技術政策総合研究所)より

雨漏りリスクの低減だけにとどまらない軒の出の効能

雨漏りリスクの低減にとどまらず、軒を出すことによって省エネ性や快適性が改善される旨の報告もあります。

軒やけらばの出が大きい場合、この部分により夏の強い日射は影になり、外壁や窓へ侵入する日射による熱量は少なくなり冷房に要するエネルギーも少なくなります。一方、「軒ゼロ」住宅の場合、夏の日射は、直接、外壁や窓を照らし、省エネ性だけではなく、住居内の 温度分布もむらになりやすく、快適性も損なわれるおそれがあります。 

「木造住宅の耐久性向上に 関わる建物外皮の構造・仕様とその評価に関する研究」(国土交通省 国土技術政策総合研究所)より

つまり、軒を出すだけで雨漏りのリスクは減って、省エネ性や快適性も増すといっています。
『こんなにいいことづくめなのに、なぜ軒を出さない。』といいたくなる気持ちになりますが、『軒の出のない場合』のメリットも当然あります。
主に、デザイン面コスト面においてです。デザイン面についてはデザイナーや建て主の感性に依存しますが、コスト面については確実に軒の出のない屋根の方が優れています。
ですので、デザイン面における好き嫌いやコスト面におけるメリットデメリットを考慮した上で、軒の出のない屋根とする場合は出来るだけ雨漏れが無いように十分な対策を行うことが必要となるでしょう。

まとめ

今回の記事では

  • 瑕疵担保保険が適用された案件の中で『雨漏り』の割合は9割以上
  • 『軒の出のない箇所』は『軒の出のある箇所』に比べて雨漏りリスクが約2.5倍
  • 軒を出すだけで『雨漏りリスクの低減』、『省エネ性の向上』、『快適性の向上』が期待できる。

という調査結果をご紹介しました。
明確な数値が分かることによって、軒を出すかどうかの判断の一助となれば幸いです。
デザインやコストの面から軒の出のない建物を選択する時は、軒の出のないことのリスクを考慮した上で、自覚的に十分な対策を行うことが必要となるでしょう。
※今回の調査結果はすべて通常の雨についてのもので、台風などの災害によるものではありません。あくまで普通の雨が降った場合の雨漏りについてですので、その点ご注意下さい。(台風などの災害による雨漏りは瑕疵担保責任外となっています。)