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私たちの仕事
Works

海の見える丘の家

建物解説


 

 住まい手とは土地探しからのお付き合いだった。今回の敷地は当初のご希望よりは大きかったものの、なだらかな南斜面を持ち、遠景に海の見える絶好のシチュエーションに惹かれての決定となった。
建物はこの好環境をいかすべく、南に木製引き込み戸の大開口を持つ居間を中心に考えた。ここ(居間)に台所・タタミ間・水廻り・土間・・・とつながり、吹き抜けを通じて2階ともつながる。大空間を内包する住まいなので暖房器具には注意が必要だ。そこでご希望でもあった薪ストーブを採用した。 基本の骨組みは紀州材、室内仕上げも土・紙・石・木・・・と蓄熱性と調湿性を持つ自然素材を採用している。大きな日差しを遮る庇、気持ち良い風の流れの室内では仕上げ材の性能にも助けられて機械依存の少ない生活が営める・・・と住まい手に好評をいただいている。驚くことに、エアコンは新築以来3年間一度も動いたことがないらしい。 土地を見ながら夢をふくらませていた頃によちよち歩きだったお子さんも今では立派なお兄ちゃん。
南斜面の緑も揃ってきた海の見える丘の家は、これからが住まいとしての本領を発揮するとき。穏やかでやさしい環境で、いつまでも仲睦まじいご家族を包み込んでいてくれることを願っている。
(中村伸吾)

 

住まい手インタビュー


空気の流れを感じて暮らす

 夏も冬も、なんとも言えない気持ち良さです。すごいと思ったのは空気の流れ!風がなくても、家の中で空気が流れてるんです。特に冬場、薪ストーブに火を入れたらピンときやすいんですが、家の中で暖気がちゃんと対流するので、どこか窓が開いていたらすぐわかるんですよ。「あ!あそこが開いてるな」って。エアコンは、一度も稼働した事がないです。もう使うことはないなと思って、リモコンから電池も抜いちゃいました(笑)。年中過ごしやすく、風通しは最高です。年に数回の猛暑日のピークでも、外の気温と比べると、やはり中の方が涼くなってる。木や自然素材の調湿作用か、家の中はサラッとしていて除湿器も使ったことがありません。

 

『良さ』を体感できる家

 新築を考え始めて、本でも勉強したし、展示場にも行ったけど、実際暮らしていらっしゃるお家を見せてもらうのが一番いいんじゃないかなと思いました。十件ほどお世話になって、全館空調のハイテクなお家にもうかがう中、やっぱり、しっくりくるのは木の家でした。中村設計さんは、地元の事務所さんとしてお名前を知っていて、まずモデルハウスへ行く機会があり、印象に残っていました。いよいよとなってからは、中村設計さんの木のお家で暮らしていらっしゃる、あるご家庭へも寄せてもらいました。十年以上前に建てた方で、先生の作風も今とは少し違う感じでしたけど、ご家族が「いいよぉ」とすすめてくださって。いろんな所へ行った中で、あらためて「あのお家は素敵だったなぁ」と思うようになりました。家づくり本の読書を重ねる中で、木や自然素材で建てるなら、本に書いてあるような『良さ』を、ちゃんと毎日感じて暮らせる家にしたい…という思いが育っていました。先生にお願いして、今、本に書いてあった良さ…自然な過ごし心地を体感できてます。本当に良かったです。

 

木と自然素材の安心感

 引っ越してから生まれた下の子には、少しアトピーがあるんです。小児科の先生が血液検査をする前に「どんな家に住んでるんですか?」と聞いていらっしゃって「自然素材の木の家なんです」と答えました。結果が出て、先生は「すごいな!」と。「食べ物のアレルギーは出てるけど、家や環境が原因のものは全然出てない」と言われました。建築前に、大工さんの作業場を見学させてもらいました。木が積んで置いてあって「これが、あなたの家になる木だよ」と、見せてくれました。壁の中のものも全部やさしい素材で、どんな風になっているのか教えてくれました。それに最後、取り壊してもただのゴミにならないんですって、うちの家。天然の素材だから、自然にかえすことができる。サッシとか少しは廃棄物も出ますけれど、迷惑なゴミにはならない家、というのが、いいなぁと思っています。一生懸命建てたので、ずっと大事に住んでいきたいから、かなり…大分、先の話ですけれど(笑)。

 

落ち着きある和風の空間

 和風で、町屋っぽく…蔵のような落ち着きある趣きの家にしたいと思っていました。外壁は真っ黒な焼き杉板で、玄関側の窓を中心に、雰囲気づくりの面格子をつけてもらいました。うちは窓辺など全部、障子です。カーテンは、子供部屋くらいかな。「高かったでしょう」って言われるんですが、カーテンをオーダーするのを思えば、手頃な気がします。障子ってあったかいんですよね、断熱性能も優秀だって教えてもらって、全部障子にしようと決めました。薪ストーブの熱をしっかり保温してくれます。子供たちも元気ですが、破ったことはないです。奇跡的に(笑)。

 

収納は量と配置で便利に使う

 勝手口から入ってすぐの場所に、衣装とかをラフに収納できる納戸を作ってもらいました。これが便利で、勝手口から帰ってきたら、鞄やコートは納戸へ入れて、向かいにある洗面所で手洗いうがいを済ませ、リビングに来る流れになっています。収納は1階にも2階にも充分とってもらって、階ごとの物を楽に入れておけるので、助かっています。

 

引っ越してからの楽しみ

 玄関前のアプローチは、引っ越し後に少しづつ、(ご主人が)制作しました。いろいろ教えてもらいながら、モルタル練って、石ひいて…。もともと趣味だったわけではありませんが、おもしろくて、外構の仕上げはほぼやってしまいました。まだ未完成で、「今度は、ああしよう。こうしよう」って造っていくのが楽しいです。空いたスペースでは、最近ちょっとづつ家庭菜園もはじめました。

 

一緒に色々考えて

 中村先生のところでは、使い勝手とか、いろんな場所の色とか、打ち合わせで聞いてくれる所が沢山あって、決めていくのが楽しかったです。「あそこはどう?ここはこう?」ってメールのやりとりもしながら、随分話しをしましたね。かなりマメにお付き合いくださいました。可能な物は現場へ実物を持ち込んで、実際使う場所に照らし合わせながら選べたのは、わかりやすかったです。この壁の和紙も、ふすまの柄も、家具の使い勝手も…この家の主だったものは全部、自分たちで選ばせてもらいました。そういう意味では、本当に自由でした。家を建てるという作業を、一緒にできた楽しさがありました。

(インタビュアー:中村祐子)

 

建物データ
所在
和歌山県田辺市
竣工
平成24年3月
構造・規模
木造2階建 / 民家型構法
主要用途
専用住宅
敷地面積
434.32㎡(131坪)
建築面積
102㎡(31坪)
延床面積
136㎡(41坪)
床面積
1階 / 85㎡(26坪) 2階 / 51㎡(15坪)