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私たちの仕事
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ふたば福祉会 たなかの杜

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    建物解説


    建物の強さと構造形式

    一般に「木の建物は地震に弱い・・。」という思いこみがあるようだが、建物強度は構造の種類によって決定されるものではない。コンクリート、鉄、木・・いずれの構造においても、どの程度の安全率を見込んだ設計になっているかで強さが決まるものだ。基本構造は建物強度からの要求ではなく、使用用途や得たい効果に見合った選択が大切だと思っている。「たなかの杜」を設計するにあたっては「自然とふれあいながら、暖かく柔らかく利用者を包み込みたい」という思いから木造を選択した。
    もちろん、公共性を強く帯びる建物の性格上、地域との環境共生の参考事例でありたいという思いは強くあった。ちなみに、壁量安全率は1.5以上、偏心率は0.15以下・・共に優良な数字で納まっている。

     

    木が山から出てくる寸法を考慮

    木の建物を造るに当たっては経験則に基づいたノウハウも重要だ。「たなかの杜」は山での木材搬出時の玉切り寸法であり、構造上無理のない、2間(約4メートル)四角を基本にして架構を組み上げた。経済的で間取りに左右されにくい、しっかりとした骨組みを造る事がまずは肝要だ。そうすることで、間取り計画に自由度が生まれ、太陽光や心地よい風を充分に取り込む大きな開口部を造ることができ、自然を満喫しながら機械依存の少ない快適な生活をおくることが可能になる。また、各部屋には必ず大きな掃き出し窓を設け、そこにデッキをつなげて、緊急時の避難が無理なく出来る避難口にもなる様に計画した。もちろん、利用者の使用する部屋は全て1階部分に配置している。

     

    木材の防火性能

    「木の建物は火災に弱い・・。」という観念も公共性の強い建物から木造を遠ざける要因の一つになっている。確かにコンクリートや鉄は燃えないが、火災による有毒ガスの発生や骨組みの変形(鉄骨造の場合)などの問題を抱えている。燃える、燃えないということよりも、火災の初期にいかに安全な避難を可能にするか・・ということを大切にするべきだろう。木材の防火性能は最近注目されている。木は1分間に約1ミリの速さで内部に燃え進むが、30ミリ程度(約30分)の炭化層ができるとそれ以上は燃えにくくなる。「たなかの杜」の基本骨格をなす木材は「燃えしろ設計」という手法で設計した。万が一の火災に備えて、構造上必要な寸法よりも30ミリ大きな断面の木材で組み上げてある。この30分の確保が初期消火や避難に大変有効なのだ。こうすることで火災時にも容易に燃え落ちることがなく、有害ガスの発生も少ない、緊急避難の容易な建物が出来る。

     

    地元の材料、地元の技術

    床仕上げには松の無垢エンコウ板、壁は珪藻土塗り、天井は紙に木のチップを漉き込んだ燃えにくい壁紙を使用した。水を使う部屋など、一部にはタイルやビニール系の仕上げ材を用いたが、主な室内仕上げは木、土、紙などの自然素材を使用して、有害科学成分の発散の少ない安心な室内環境づくりに努めた。
    特殊な構法や材料に頼らず、できるだけ地域に残る材料を使用し、地域に残る技術で造る事が大切だと思っている。みんなが使う施設であればこそ、地域の環境循環や経済循環を充分に考慮していくことが必要だろう。

     

    建物データ
    所在
    和歌山県田辺市
    竣工
    平成20年3月
    構造・規模
    木造2階建 / 民家型構法
    主要用途
    通所型福祉作業所
    敷地面積
    2067㎡(625坪)
    建築面積
    465㎡(140坪)
    延床面積
    451㎡(136坪)
    床面積
    1階 / 376㎡(114坪) 2階 / 75㎡(22坪)