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上西薬局
建物解説
南紀白浜の景観から着想をえて
南紀白浜……その中でも源泉のある湯崎というところは、年中、潮の香りと温泉のにおいが立ち込めて、近くに暮らしていても独特の雰囲気を味合わせてくれる土地柄である。
この地に店舗併用の鉄骨3階建ての建物を建てる。
海・岩・砂浜・堤防のコンクリート……などの地域を特徴付ける要素をモチーフとして、温泉街に馴染みが良く、景観をリードしてゆける建物になるようにと心がけた。
建て替えならではの生活実感を生かす
住まい手からは、店舗部分の使い勝手や広さの具体的な要求がかなり細かくあった。
一方で、住宅部分についてのご希望は少なく、風通しが良く、道路側(店舗正面側)の西日をうまく制御できるように……が一番大きな要求であったように思う。間口が狭く奥行きが深い敷地の中に建っていた旧建物では、風の通りが悪く、低く強く差し込む西日に閉口していたようだった。
建て替えとまったくの新築の場合で、一番おおきく違うのは、住まい手さんの生活実感の有無である。
長年同じ土地で暮らし仕事をしてこられたご家族は、地域の気象状況や風土、敷地の特徴をよくご存じだ。この強みを丁寧に設計へ織り込み、新しく快適な空間の実現を目指す。
鉄骨造の内側に、木造の快適さを取り入れる
鉄骨3階建ての建物で、良好な室内環境を得るための手段は……「いつもの木造と同じ」という訳にはいかない。室内仕上げに調湿・蓄熱の役目を果たす材料を使用することに変わりはないが、断熱・気密に対する考え方を木造とは根本的に変える必要がある。
木造では、なるべく透湿抵抗の小さい壁材(断熱材とも)を用い、室内の仕上げ材で処理が追いつかない湿気を通気層を通じて屋外に放り出す算段をする。
しかし、鉄骨造ではそれが出来ない。開口部を大きく取り、風の通り道をしっかりと確保して、自然換気を最大限に利用し、その上で、足りないところを機械に助けてもらうことにする。断熱・気密はしっかりと……これが今回の方法だ。
西日に対する対策は基本に忠実に……軒の出を大きく取り、熱線反射のペア硝子を装備した上で、内部に障子を建て込んだ。障子は気密の性能も高く、外壁の硝子面との間に空気を閉じこめ、有効な断熱層として機能する。
1年目(平成20年)
先日、竣工から1年以上経った夏の日に写真を撮りに伺った。
とてもきれいにお住まいなので驚いた。
「住まい心地はどうです」と奥様に聞いてみたところ「電球の切れるのが早いので対策を考えたいが、快適に住まえて満足している」とのこと。大切に扱ってもらっている様子が一目でわかる住まいぶりだった。実は、御主人とは高校時代に知り合い、40年に近いお付き合いになる。旧知の友人からご依頼をいただくのは嬉しいものだ。しっかりとしたものをお届けできたことで、お気持ちにお答えできたんではないかなと思っている。
建物データ
- 所在
- 西牟婁郡白浜町湯崎
- 竣工
- 平成19年5月
- 構造・規模
- 鉄骨造3階建
- 主要用途
- 店舗併用住宅
- 敷地面積
- 391㎡(約118坪)
- 建築面積
- 148㎡(45坪)
- 延床面積
- 372㎡(113坪)