私たちの仕事Works
上三毛の家

建物解説
家づくりの難しいところは、住まい心地が目に見える形で示されていないことです。例えば、成績表のようなものがあって、点数が高い方が快適・・・ということならば判断は簡単ですが、国の性能表示制度(住まい性能の点数化)などを持ってしても本当に快適かどうかを見極めるのは至難の業です。あるクライアントは、どう見ても木の家に見えたので見学会に行ってきたのですが、湿気でムッとした室内に幻滅し、その工務店で建てるのをやめました・・・と言って私のところを訪ねてくれました。見た目に同じような家でも、しっかりとした考え方の元に木の家としての対策がなされていなければ、木の家独特の清々しい住まい心地は望むべくもありません。
この家の住まい手も他社のモデルハウスをご覧になった後に木の家工房Mo-kuを訪ねてこられました。いくつか家を見たけれど気に入ったものがない・・・とおっしゃる奥さん・・・小一時間の談笑の後でご主人が、あんなこと言ってましたけど、こんなに長く居たのは初めてです、結構気に入っているんだと思います・・・と言い残してお帰りになりました。そして後日、正式な家づくりがスタートしたのです。
- ▲リビングスペース。南側に木製の掃き出し窓を備えたリビングスペース。心地よい光が差し込む。
洋服などを買う時には着心地というものを大事にします。住まいも住まい心地で語られるべきですが、洋服のようには試せないのがつらいところ・・・そんなときには自分の感性を信じていくつかの住まいを回ってみましょう。その気になれば、あなたの五感がパンフレットにはない住まいの善し悪しをきっとあなたに教えてくれることでしょう。
上三毛の家は住まい手がご自身の五感を信じて見つけ出してくださった住まいです。断熱・気密と共に調湿・蓄熱に注意を払い、地場産の杉・桧をはじめとする、土・石・紙などの自然素材で造り上げています。設計者として精一杯の思いを込めたこの住まいが、いつまでも住まい手ご家族とともに健やかでいてくれることを願っています。(中村伸吾)
住まい手インタビュー
進めると、具体的になってくる
敷地や資金も含め、行き当たりばったりだったけど、すごく良い流れで来たと思います。
その場になるまで具体的でない事って、沢山ありました。しっくりくる家づくりをされてる方に出会えるまでがんばったので、“こだわり”みたいなものは固めず、おまかせしました。
プランを提案してもらってから、課題がハッキリしてきた感じです。
- ▲玄関。玄関は天井高さを低く抑え、抜けた空間とならないよう配慮した。 土間は金錆砂利洗い出し仕上げ。
- ▲洗面所。玄関収納を介して、外部から直接入ってこられる洗面所。 この部屋から『手洗い→脱衣→浴室コース』と『手洗い→リビングコース』に分かれる。 この動線は住まい手の生活スタイルから生まれた。
図面を拝見しつつ、動線はすごくシミュレーションしました。僕(ご主人)は仕事柄、汚れて帰るので、直に脱衣室へ回って全部脱いで、服も自分もキレイになってからリビングへ入ります。賃貸のハイツでは、何をするにも必ずリビングを経由するのが不便でした。家族で土を触ったりもしますが、どろんこになったらお風呂直行ルート。汚れてない時は玄関からリビングへ。帰宅ルートが2つあるので、食事と団欒の場はいつでもキレイです。「ウチは外でも元気に活動する。だから、こうしたい!」っていうのを、ダイレクトに形にしていただけました。住んでから、暮らしに合ってるなと実感してます。
- ▲キッチンからリビングを見る。奥には4間引き込みの木製掃き出し窓。 框が隠れる納まりとしているので、建具がないように見える。
- ▲畳間。こちらも引き込みの木製掃き出し窓を採用し、障子も引き込みとした。 正面に見えるのは奥さんのご実家。
実はプランのかなり後半で家のサイズが「ちょっと大き過ぎるかも…」と、縮めてもらったんです。
折々に選択の機会があって、決断の時にはすごく迷いました。自分にとって本当に必要かどうか。自分の場合は……ってイメージするのが、実際にしてみると本当に難しかったですね。薪ストーブには憧れてたんですが、使ってはじめて良さが活きる実用品…。かなり考えて普通の石油ストーブにしました。私たちの生活スタイルならこっちで正解だったと思います。
広さも広ければ良いのかと考えたら、そうでもないかな…って。結果的に今の広さがベストでした。本当に、人それぞれ。かなり違うものですね。
自分たちに合ったスタイルの家にできたから、今すごく満足しているんだと思います。
インテリアや収納の工夫
物は使い回しを工夫しながら本当に必要な分だけ大事にしたいんです。毎日使う物ってそんなに多くないですよね。収納のためのデッドスペースは勿体なく思えて……今の収納量で収まる暮らしが理想ですね。炊飯器はやめて、食べきる量だけをお鍋で炊いてます。新居ではリビングの机を買ったくらい。照明や家具は手持ちを活かしてもらったし、馴染みの物をうまいコト使い回せたから引っ越し後もすぐ落ち着けました。
- ▲キッチン。リビングと人つながりのアイランドキッチン。 キッチンと背面の食器棚は家具による造作で製作。
- ▲書斎スペース。2階の書斎スペース。桧の耳付きカウンターを採用した。 吹抜側は壁とせず、本棚手すりとして利用。
- ▲2階ホールから子ども部屋へ。階段横のスペースも本棚手すりとして利用。
- ▲子ども部屋。インディアンのテントに、梁から吊したブランコ。 実に楽しそうな空間。
- ▲書斎スペースから吹抜を見る。吹抜にはプロペラファンを設置。 明るい空間となるよう、吹抜の壁にも採光窓を設けた。
玄関は靴箱とか置いてません。靴は玄関続きの土間のシューズクロークに。使うものだけ出すスタイルです。
日常的に使うお出かけグッズだけハンガーに掛けてあるんですが、これは掛けるものや量に合わせていつでも動かせるし。見た目もスッキリ、フリースペースが広くて身支度も伸び伸びできてます。
光熱費は最小限
夏のスーパーで太陽光発電の営業さんに、ビックリされました。「電気代そんななんですかっ?」って。「今は時期的に年間のピークです」と言うと、普通はもっと高いって。冬は空調を使わないので、夏場クーラーの時期が一番光熱費がかさむんです。
冬は補助的にパネルヒーター。メインの二〇帖用対流型石油ストーブ1台で、2階までほぼまかなえます。お湯が沸くし料理もできるし、石油ストーブもなかなかです。つけっぱなしだとタンクがすぐ空になるので、冷え込む早朝と日が沈む頃につけて、日が昇ってる間は消します。日中は余熱と陽射しで、底冷えしません。晴れてれば明るいし、ほんのりあったかい。曇りや雨の日はさすがにストーブつけますけど (笑)。でも夏場はクーラー、使いましたね。他の家と比べたら時期は短かったけど、つけたらつけたで気持ち良かった (笑)。ワンフロアが広い家ですが、窓を閉めたらすぐに冷えます。
暮らしが、たのしい!
庭とはよく出入りします。夏はバーベキューやプールをしました。冬は干し野菜にはまって、陽射しが丁度イイ感じだから、切った野菜をデッキへズラーって並べたりして。美味しかった。キッチンで植えたサツマイモのツルは、環境が合うのかグングン育って愛嬌あるインテリアグリーンになりました。
- ▲正面外観。奥に見えるのは田んぼの緑。庭の芝生と重なり、広がりを感じる。 外壁の上部は焼杉板を採用。
- ▲外部木製デッキ。木製掃き出し窓の外にはデッキを設置。 冬にはここで干し野菜を作るとのこと。 庭の見事な芝生はご主人が手入れされたもの。
まだカーテンをつけてないんです。向かいは実家だし、ゆくゆく生活実感が湧いてからでいいと思ってました。でもある夜布団に入ってたら、星が「キラッ」て瞬くのに気がついて。窓越しの流星群を眺めて眠ったりしてるうち、必要ないかも…って。普段の開放感が気持ちいいし、1階は木の雨戸を閉められるから、今後もつけることはないと思います。
見事な芝生は、ご主人が熱心に手入れをされているそう。暮らしがあってこその住まいの生き生きとした姿でした。(インタビュアー:中村祐子)
建物データ
- 所在
- 和歌山県和歌山市
- 竣工
- 平成26年5月
- 構造・規模
- 木造2階建 / 民家型構法
- 主要用途
- 専用住宅
- 敷地面積
- 366㎡(110坪)
- 建築面積
- 89㎡(27坪)
- 延床面積
- 121㎡(36坪)
- 床面積
- 1階 / 76㎡(23坪) 2階 / 45㎡(13坪)