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わんぱく保育所

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建物解説


 

 わんぱく保育所の話を最初に聞いたのは平成14年の秋頃だったと思う。「保育所の設計を頼みたい。」と役員の方から直接連絡が入った。伺ってみると関係者の方々が熱気あふれる議論をされていた。「自然をいつも肌で感じることが出来るように」「木のやさしさを感じながらみんなが家族のように育ちあえるように」「楽しく衛生的で安全に過ごせる保育所であるために」・・・木造建築、しかも民家型でいくという方針は必然のように決まっていった。

構造材や杉厚板のあらわし使用が快適な室内空間を手に入れる上で効果的なことは体験済みだが、2×4(ツーバイフォー)や集成材そして大壁構造への対応を主にしたような現行建築基準法の中では、住宅以外の用途や住宅を上回る規模の建築物を木造の在来工法で木の良さを活かしながら建てることは簡単ではない。

今回の設計に当たっては3つの要素が厚板を大量使用した木造民家型の保育所を可能にした。

 

■竹小舞(エツリ)組土塗り壁の採用

木造建築物の外壁は防火地域外でも延焼線のかかるところでは準防火性能を持った構造でなければならない(基準法23条)。つまり、特別の手だてなしで外壁に通常の板壁は施工できない。さらに、今回建物の用途では内装制限に触れ(基準法35条の2)、室内仕上げを準不燃材料以上にて仕上げなければならない。内装仕上げにも通常の板壁や和紙貼りは許されないのである。そこで土塗り壁の採用となる。そうすることで外壁の板壁が可能になり(告示1362)、内装についても土塗り壁部分を珪藻土塗り仕上げとして不燃化することで板壁部分以外の内装制限がクリアーできた。同時に室内に有効な調湿・蓄熱体の確保ができた。

 

■厚板、化粧板の準不燃加工

板壁以外の内装制限(不燃化)を土塗り壁でクリアーした旨は前項で述べたが木造軸組民家型構法を採用するこの建物では床・壁・天井にふんだんに木を使いたい。特に厚板については人工林との共生という大きな目標からなんとしても実現したいところであった。しかし、無垢の厚板を準不燃加工するノウハウと設備を持つところは全国的にも珍しい。今回は龍神村の川口建設に全面的な協力を頂いた。地元にこのような企業が存在する幸運に感謝する。無垢板の準不燃加工については施工性や結露の問題から未だ開発途上にあるとの印象を持った。しかし、林業の未来に大きな可能性を与える重要な技術である。

 

■構造軸組の燃えしろ設計

防火区画を構成する壁は準耐火構造以上の防火性能を有しなければならない(基準法30条)。今回建物では各保育室の界壁とローカと保育室の界壁がこの部分に当たる。壁は準耐火構造の認定を受けた建材を下地に使用することでクリアーできるがそのままでは大壁となる。木の持つ特性を充分発揮させ、全体デザインに統一感を持たせる上で柱や梁はあらわし(真壁)としたい。2004年3月、それまで集成材に限定されていた燃えしろ設計が無垢材にも摘要になったのを機会に早速に採用した。これで真壁は実現できたが、現行法の在来軸組工法の木造に対する対応がいかにも後手であると感じる。
 この保育所は準不燃加工板という特殊な材料は使用したが、現場においては紀南に残る職方の技術水準を持つならば誰でも施工できる・・ということを大切にして造り上げた。イメージリーダーたる建築物を建てる事と同時に、広く地域環境に貢献するということで考えるならば外してはならない視点であると思う。

「わんぱく保育所」は2005年7月に新しい建物での運営を開始した。年度の途中からの園舎移転ということもあり、順番待ちの現在の状況が信じられないくらい当初は子供たちも少なかった。
 「わんぱく保育所」の「求める子ども像」は
 一,何事にも積極的に取り組める子。
 一,その時々に応じて自分で判断し自主的に活動できる子。
 一,新しいこと困難なことににも挑戦する気持ちや意欲を持っている子。
 この三つであると聞く。

 今はそんな子供たちがたくさん走り回っている。多くの大人たちの思いのたけを詰め込んだこの木造園舎の中で子供たちがすくすくと育ってくれることを心から願っている。
(中村伸吾)

 

建物データ
所在
和歌山県田辺市
竣工
平成17年6月
構造・規模
木造2階建 / 民家型構法
主要用途
保育所(児童福祉施設)
敷地面積
1192㎡(361坪)
建築面積
480㎡(145坪)
延床面積
525㎡(159坪)
床面積
1階 / 425㎡(129坪) 2階 / 100㎡(30坪)