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府中の家ができるまで
Process

府中の家 住宅性能を設定する。

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    ・ 構造性能を設定する Ⅰ。
    平面と立面(外観イメージ)が固まってきましたので、各部の詳細に入る前に、この建物に与える構造上の強さの設定をします。この過程をないがしろにしていると、折角抱いた造りたいもののイメージが、絵に描いた餅・・・になってしまいかねません。想いは実現の可能性を有しているのかの検討が、まずは必要です。
    ところで、木造建築物は鉄筋コンクリート造や鉄骨造に比べると地震などに弱い・・・と思われている方も多いようですが、現実はそうではありません。鉄筋コンクリート造も鉄骨造も木造も、同じように法的に決められた構造性能を満たす必要があります。そこには構造種別による違いはありませんので、建物の強い・弱いは与えられた安全率の大きさによって決まるわけです。詳しくは、知って得する建築の知識の「木造は鉄骨造、鉄筋コンクリート造と比べて地震に弱いのか」の欄を参照してください。

    さて、下の表の数字に注目して下さい。もちろん、準備計算や関係図面は他にいっぱいあるのですが、その中から特に大切なものを抜粋して表にし、府中の家に与えられた建築基準法上の建物強さについて解説します。

    上の表2行目の壁量安全率というのは、必要な壁量に対して、どのくらいの耐震壁量が確保されているかという数字。ちなみに、1.00が基準法上で建築可能となる数字。1.25は数十年に一度の地震・台風に耐えられるでしょうという数字。1.50は数百年に一度の地震・台風に耐えられるでしょうという数字です。XもYも(縦方向も横方向も)1.50をはるかに超えて、2.55、3.41という数字ですから、法的に建てても良いよ・・・という数字からすると2.5倍を超えて丈夫な建物に設定したことになります。
    ちなみに、偏心率は強さの片寄のこと、壁心率は壁量の片寄のこと。つまり、この建物は強い耐震・耐風壁がバランス良く配置されていて、安心感の高い建物である・・・ということです。
    2階建以上の建物の場合には壁料安全率、偏心率、壁芯率の他に、直下壁率といって下の階と上の階の壁配置のバランスについても検討しますが、府中の家は平屋建ての建物ですのでこの項目についての検討はありません。

    ・ 構造性能を設定する Ⅱ。
    紀伊半島では30年以内にマグニチュード8.4以上の地震が起こる確率は50%以上と言われています。ですから、念には念を入れて、建築基準法上の壁量安全率以外に、性能表示上の強さ設定も同時に行います。
    建築基準法上の壁量安全率と性能表示上の耐震・耐風の考え方の違いは、前者が地震や台風の外力に対する壁の強さのみを判定するのに対して、後者では床や屋根の強さと共に柱と梁、梁と梁の接合部の強さを含めて建物全体で総合的に判定することです。たとえば、外壁の1点に掛かった外力に壁だけで対応しようと思うと相応に強い壁が必要です。しかし、壁に接する床や屋根が充分に強固でその力を他のヶ所の壁にも負担させることが出来れば(建物全体で外力を負担できれば)それぞれで処理する外力は小さくて済むわけです。つまり、床や屋根がしっかりしていると、壁の強さが同じであれば、より大きな力に対応できる・・・ということになります。そして、そのためには柱と梁、梁と梁などの接合部も強さの検討が必要・・・という訳です。
    耐震等級3・耐風等級2というのは現在設定されている規定の中で最も上級の等級です。ちなみに、この等級は長期優良住宅の認定にも採用されている等級です。

    表中、床倍率判定表も性能表示壁量判定表も判定欄にOKの文字が並んでいますので、この建物には耐震等級3・耐風等級2の強さが確保できている・・・ということです。
    重ねて言いますが、建物の強さは木造や鉄骨造、鉄筋コンクリート造などの基本構造の違いによって決まってくるものではありません。あくまで、それぞれの構造において、決められた基準強さに対してどれほどの余裕を持っているか・・・によって決まるのです。木造建築物も設計時の強さ設定によって充分強く安心な建物が造れることを理解いただきたいと思います。

    ・ 外皮性能を設定する。
    外皮性能(断熱性能)は、省エネの時代にあってはとても大切な住宅性能です。地球環境や国・地域に影響を与える性能であるばかりでなく、家庭にあっては光熱費として目に見えるカタチで直接家計に響いてくる性能です。
    目指したのは、外皮平均熱貫流率・冷房時の平均日射熱取得率共に最高の等級4。それぞれに基準値が0.87のところ0.59、2.7のところ1.7と優秀な数字で達成できています。達成した数字は青森や秋田・岩手などの結構寒い東北の沿岸部でも等級4を満たせる数字です。和歌山では充分以上の断熱性能だと言えるでしょう。

    外皮の熱貫流率を下げるのにも、冷房機の日射熱取得率を下げるためにも、窓を小さくすることは数字上有効な方策です。しかし、あちこちで見かけるこのような対策は、人がその家に住まう・・・という住宅の本質から考えると本末転倒と言わざるを得ません。府中の家では、熱損失が大きいからと小さな窓を少しだけ取って、陽当たりも風の通りも悪い部屋で、かえってエアコン稼働率を高めてしまうような数字面だけ良い省エネ住宅ではなく、紀伊半島の気候風土に合わせて大きな開口部を取り、充分な風の通りや陽当たりを確保した上で、この優秀な数字を達成出来ました。これには大きな意味があると思います。
    断熱(外皮)性能について書きましたので、気密の性能についての考え方にも触れておきます。一般には、室内に面するプラスターボードなどの壁下地板の外壁側に防湿シートを貼り込んで気密層を構成し、この気密層で壁体内に湿気が入るのを遮断し、結果として壁体内の結露を抑制する方法がとられています。しかし、この方法では室内の湿気は逃げ場をなくし、結露以外にもカビなどのリスクに悩まされる事になります。解決方法は24時間の換気とエアコンなどによる機械的な除湿が有効です。つまり、省エネを目指して高断熱・高気密の建物を造り、そのリスクから逃れるためにエネルギーを消費する・・・という悪循環から逃れられません。
    府中の家では、室内側に湿気を遮る材料は使用せず、壁体内に入った湿気は通気層を通じて外気に排出される建築的な工夫をして結露のリスクやエネルギー消費の悪循環から逃れています。もちろんそのためにはしっかりとした結露計算が必要ですが、結果として断熱等性能等級4相当の住宅性能を得ています。

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