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府中の家ができるまで
Process

府中の家 大屋根を造る。

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    ・タルキ掛と野地板張り。
    上棟が終わると急ぎでするのは大屋根造りです。無垢の構造材は雨に強い・・・とは言っても、上棟してからであれば雨の跡が化粧材に残ったりすることもあるので、濡れる機会は少ないに越したことはありません。
    屋根下地としてまず取り付けるのはタルキ。タルキは棟木から軒桁に架けて、軒先まで伸びていきます。屋根仕上げによって負担する荷重も違いますから一概には言えないので、正確には構造計算をしてタルキ寸法(高さ)を求めますが、タルキのピッチ(間隔)が45センチほどの場合、半間(約1メートル)の支点間距離のタルキでは6センチほどの高さ、1間(約2メートル)の場合は9センチ、1.5間(約3メートル)の場合には12センチをタルキ高さの目安としています。
    府中の家では最大で1.5間の支点間距離がありますので、12センチの高さのタルキを使っています。12センチの高さでは軒先で屋根が重たく感じてしまうこともあるので、軒の先端に向かって7.5センチにタルキの高さを低く(細く)して軽快に見える工夫をしています。

    野地板は全てのヶ所で杉板を張っています。ただし、必要な意匠性と構造強度によって張り方と仕上げを変えてあります。
    軒先部分は構造上の強さを要求されませんし、あらわしとして直接見せるので、表面をきれいに仕上げた板を軒先に平行に目透かし仕上げで張っています。板加工は本実です。軒桁内部(室内側)は構造上の強さを要求されますし、仕上がると見えませんので、仕上げていない板を1間毎に交互に斜めに張ります。こうして斜めに張っておくと、軒先に平行に張った板に対して2倍以上の強さを発揮します。斜めに張る板の加工は、溝などがなく仕上げもない野材です。

    ・通気層を造る。
    屋根は外壁の3倍の太陽エネルギーを受けると言われています。ですから、断熱はもちろん大切ですが、まずは屋根面が熱くなりにくい工夫をします。そうしないと、熱せられた屋根面の熱を室内に伝えないようにするには大量の断熱材を投入しなければならないことになり、費用的にも負担が大きくなります。府中の家の大屋根では、屋根面の下にしっかりと屋根冷却装置としての通気層が設けら、屋根温度を下げる工夫がされています。

    写真は通気層を造っているところです。白いシートは透湿防水シート。棟換気や大屋根仕上げ面からの万が一の漏水に対する備えです。このシートは杉の野地板のすぐ上に施工され、下からの湿気は通しますが上からの水は通しません。透湿抵抗も低いので、断熱材を素通りした室内の湿気を通気層に排出することが出来ます。湿気の排出には杉板も大いに役立っています。杉板よりも透湿抵抗の高い構造用合板などを野地板に使ってしまうと、室内で出た湿気が合板を通過出来ず、結果、断熱材の中で結露してしまうことがあるからです。結露は断熱材の中だけにとどまることなく、室内のあらゆる所に出現し、健康生活の大敵となります。
    透湿防水シートの上に通気桟を敷き、この上に屋根下地の野地板(合板)を施工します。通気桟の高さが通気層の厚みになり、屋内から出た湿気はこの通気層に排出されます。通気層の外側では化学薬品などが気になる材料でも室内の空気を汚染することはなく、透湿抵抗の高い合板を使っても断熱材内での結露の心配などはありません。むしろ、釘の保持力の高い合板は屋根材をしっかりと止め付ける役目を着実に果たし、施工性も良いので、この部分での使用は合理的な選択だと言えるでしょう。

    ・大屋根防水。
    杉の野地板の上に敷く透湿防水シートは万が一の備えで、本来の大屋根の防水層は通気層上部の合板野地板の上に敷く改質アスファルトルーフィングが受け持ちます。府中の家では、一般流通品より少し厚い1.2ミリの厚みを持つ片面接着仕様の品物を使用しました。

    充分な厚みと弾力性を持っているために、屋根施工用の釘などが貫通しても雨漏れの心配が少ない材料です。また、接着面を持っているので、上に乗って仕事をしてもズレや滑落の心配は少なく、スティップルなどの金物で止め付ける必要がないので防水性・水密性・耐久性にも優れた、安心感の高い防水材と言えるでしょう。

    ・板金工事 大屋根はガルバリューム鋼板横葺き。
    重い重量の屋根葺材は地震に不利という判断から、最近では金属板葺屋根が随分と増えてきました。府中の家も金属板葺屋根を採用しています。金属板にはステンレス着色板、チタン合金板、銅板、ガルバリューム鋼板など色々な種類がありますが、今回採用したのは費用と性能のバランスに優れるガルバリューム鋼板です。ガルバリューム鋼板は鉄とアルミの合金板で、塗装皮膜の選定次第では30年を超えて実用的に使えるうえに、前出の金属板の中では最も安価な材料です。

    葺き方にもいくつかの工法があります。最も雨仕舞いが良くて安価なのがタテハゼ葺きや瓦棒葺きなどの、棟から軒先までを切れ目のない1枚の板で葺き上げる工法です。少し割高でも見栄えが良いのは、横に葺いて1枚1枚に厚みを持たせる段葺きです。横葺きや平葺きは両者の真ん中ぐらいの性能・価格です。
    府中の家では、平屋で屋根面が見えやすいことと工事費を考慮して、横葺きという葺き方を採用しました。仕上がってみると、わりと上品でおとなしい印象の屋根になりました。薪ストーブの円筒囲いなども同じ材料で仕上げています。防水も屋根面と同じ1.2ミリ厚の改質アスファルトルーフィングでしっかりと行っています。屋根面と煙突囲いなどの突起物、軒先やケラバの納めなどが容易に出来る施工性の良さも板金屋根の良いところです。

    ・板金工事 破風・鼻隠しなど。
    タルキや軒先仕舞い・ケラバ仕舞いの材料を紫外線や風雨から守るのが、破風板や鼻隠しなどの屋根の先端に使用される材料の役目です。ですから、これらのヶ所に使用される木材は建物に使用される木材の中でも最も厳しい環境にさらされる木材だと言えるでしょう。そのために塗装仕上げが一番に痛み始めるヶ所であり、木部の変色や劣化が一番早いヶ所でもあります。

    府中の家では、この部分の木材を板金工事で包み込み、保護することにしました。包み込むことによって、木の家・・・という言葉から連想する和風の建物から少し雰囲気を変えたいと思います。また、屋根に少しの厚みを持たせて建物に落ちつきを与えたいとも思っています。使用するのは大屋根に使ったのと同じ仕様・色のガルバリューム鋼板です。

    ・大屋根 棟換気装置を付ける。
    建物全体をスッポリと通気層でくるんでしまうことは、暑さ・寒さの外部環境を室内に伝えにくくするためにも、室内の湿気を適切に排出するためにも、また断熱材の総量を少なくして工事費を抑制するためにも効果的です。
    空気は、暖かくなると上昇し、冷たくなると下降する性質があります。この性質を利用して通気層内の空気を動かします。熱源(動力源)は無料で降りそそぐお日様の暖かみです。
    例えば夏場には屋根面が熱せられるので、外壁の一番下から吸い上げられた冷たい空気は徐々に温められながら屋根に到達し、一番高い棟の部分から屋根面の熱を奪いつつ排出されます。排出される空気は、排出口に手をかざせば熱風となって体感されるほどの勢いです。この空気の勢いが屋内の湿気も同時に吸い出して排出してしまうので、ジメジメやカビに悩まされることのない快適な住まいづくりが出来るのです。

    大屋根の一番高いところにある換気棟(棟換気装置)は、外壁の通気層を伝って上がってきた空気が屋根を経由して最後に排出されるところで、通気工法の要とも言えるヶ所です。同時に、屋根面で唯一、外部に対して開かれたヶ所(防水層が途切れているヶ所)ですので、雨水の侵入には最も注意しなければならないヶ所です。
    守りは二重三重と堅牢に出来た商品を使用しますし、施工も細心の注意を払いながら進めますが、それでも突破され漏水事故が起きた時には、野地板の上に敷いた透湿防水シートが最後の砦となって雨水を受け流す役目を果たします。通気層に入った水は屋根面から外壁面へと流れて、外壁の一番下にある給気口から排出されます。外壁の通気層の下に敷き込んだ透湿防水シートは、外壁の防水に対しての二重の備えとしての役目を果たすだけでなく、屋根面の万が一の漏水のためにも大切な防水層だと言えるでしょう。

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