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長浜・近江八幡を街歩き


(Mo-ku通信vol’7)

事務所の研修旅行で、滋賀県の長浜と近江八幡を訪ねてきました!
「皆さん、みごとに上ばかり向いてますね~」 ボランティアガイドさんは、苦笑半分、感心半分。建築関係者は観光に来ても露天や見せものに注目せず、上を見上げて梁組や町並みばかり眺めているのだとか。

一日目は、羽柴秀吉が長浜城の城下町として開いた街・長浜を案内していただきました。
中心街の観光スポット「黒壁スクエア」は、江戸~明治時代の和風建造物がたち並ぶ、情緒ある町並みで有名です。ボリュームに圧倒されてタイムスリップしたような感覚になります。
ところでどうして〈 黒壁 〉なの?
街を歩いていると、時を重ねた住宅の木部は重厚な色合い。深い軒の出を覆う瓦も鈍色。確かに落ち着いた色調なのですが、真壁の漆喰は白いのです。
答えは、今も「黒壁ガラス館」として街の目玉に据えられている旧「黒壁銀行」にありました。
明治33年建造のこの建物は洋風土蔵造りに黒漆喰の壁という和洋折衷で、先進的なデザインが街のシンボルとして人々に愛されてきたそうです。墨を練り込む黒漆喰は、丁寧に仕上げると鏡のように顔が映るくらいにまで光沢がでるもので、現在でも左官仕事の最高級とされています。建った当初はどんなふうだったのでしょう。
(※真壁:柱など構造材を中へ隠さず、外にみえたままに仕上げる壁のこと)

実はスクエアから少し離れると、車の窓からよく見かける滋賀の伝統的な民家は、白い漆喰の真壁は同じなのですが、構造材にはベンガラを施しています。
雨風に直接晒される木材が傷まないようにと、ベンガラは保護材の役割を果たしているのでしょう。
白と赤のコントラストが美しいこの様式と、スクエア周辺の白に黒や灰が中心の色合い…違いはどこからくるのか・・・黒壁銀行への愛着の現れ…?時代的な差異…? 興味のわくところです。

2日目に訪ねた近江八幡は、こちらも城下町。豊臣秀次が基礎を築き商業都市として発展してきたそうで、商人の旧伴家住宅と旧郵便局屋敷が軒を連ねます。
近江八幡の目当ては、ウィリアム・ メレル・ヴォーリズの建築でした。明治の後期から日本へいち早く西洋建築を持ち込んだヴォーリズの建築の一部を、 活動拠点であった近江八幡では、まとめて見て回ることができます。
池田町洋風住宅街、生前お住まいだった自邸、旧郵便局などを見学しました。

「建物の風格は、人間の人格と同じく、その外見よりもむしろ内容にある」という主義のヴォーリズの建築には、日本の気候風土や住習慣に適合させる工夫が様々になされているといわれます。
地元の素材も、家づ くりにはふんだんに取り入れられたようです。近所の釜から出る焼きすぎた廃材レンガを再利用した塀はゴツゴツと素材感豊かで、漆喰を投げつけるスタッド仕上げの外壁には苔むしたようなモコモコとした面白さがありました。

そして…現地で一同、感銘をうけたのが旧伴家住宅です。

13年もかけて建てられた地元豪商のお屋敷。建築期間の多くは木材の確保と乾燥にかかった時間だといいます。 それだけのダイナミックな木組みでした。ここではまさに、 所長や設計スタッフは、上ばかり見上げていました(笑)。
判家の柱や梁には、木そのま まの曲がりやねじれがある不揃いな材も有効に活用されています。一本一本が太く長く立派です。建てた豪商の活力が足下から力強くわき上がってくるような感覚で鑑賞しました。

長浜も近江八幡も、歴史的建造物でありながら現役で人が住まい続けている町並みには、大切に残していこうという街の人たちの体温と愛情を感じることができました。なにより、歩いていて気持ちがいいのです。住まいにとって、 建築にとって大切な素朴なものを改めて体感する旅となりました。(中村祐子)

 

長浜・近江の地域色ゆたかな建築素材

▲船の杉板(長浜)
琵琶湖を運河として栄えた街ならで はの素材です。壊した船の杉板を住宅 の外壁などに再利用。傷は、船に使われた時に釘をさしてあった名残だとか。

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