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府中の家ができるまで
Process

府中の家 木製家具・建具と外部仕上。

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    ・木製の家具を据える。
    既製品の家具の中からニーズにぴったりと合ったものを探し出すのはなかなかに難しい上に、品物によっては化学薬品の臭いなどが気になることもあります。その点、現場に合わせて設計・製作される造作家具は、住まい手のニーズを良くくみ取り、空間に無駄のないジャストフィットの、世界に一つだけのオリジナル家具で、地震で倒れる心配もなく、素材感も建物と調和がとれていて、高耐久であるなどの長所があります。  
    府中の家では、ほとんどの家具を造り付けとしました。部屋の使い勝手、家具の役割などを入念に打ち合わせた上で設計しますが、製作の直前にもう一度、詳細寸法・扉のあるなし・開き勝手、取手・引手の種類、仕上げなどを打ち合わせます。材料は地元龍神産の桧材が中心です。

    家具工事を現場での大工の制作にすると、安くは付きますが使える工作機械にも限りがありますし、そもそも大工は家具職人ではありませんので、施工精度や細工に問題が出ることもあります。ですから、工場で専門職の手によって本体を組み上げ、現場搬入の後に状況に合わせて微調整を繰り返しながら据え付ける工程をとります。
    写真は台所の食器棚を据え付けている様子。天板はステンレスの板をバイブレーション加工した品物。専門職が図面に従って製作しますので、ステンレス天板も石の天板も人工大理石の天板も、もちろん木の天板も思いのままです。

    ・木製の建具を付ける。
    府中の家のすべての建具は、建具職人が作った、無垢の龍神材による造り付けの製作建具です。最近では建築工事に関わる専門技能を身につけた職人の数が減り、特に無垢の木で家具・建具を作る職人は激減しました。それに伴い、家具・建具材料を扱う問屋・製材も少なくなり、建築用材とは異なる特殊な家具・建具用材はとても高価な材料となり、何の工夫もなく無垢の木で出来た木製建具を採用するのは難しくなっています。

    中村伸吾建築設計室(木の家工房Mo-ku)では、都度に高価な建具専用材を調達するのではなく、自ら木材市場に出向いて原木を調達・製材し、乾燥させて建具専用材(家具専用材)を自前で用意する職人と協同することで、住まい手にリーズナブルな価格で良質な木製家具・建具を提供しています。一つ一つが手造りなので、寸法も使い勝手もデザインも自由自在です。
    府中の家の大きな特徴の一つは、アルミサッシの掃き出し開口部の多くに紙障子を採用したことです。カーテンやブラインドでは隙間も多く、冬場の窓際に冷気が降りてくるコールドドラフトなどへの対応も甘くなりがちですが、紙障子は気密性が高く、障子紙1枚では想像できないほどの断熱性を発揮します。

    ・薪ストーブを据える。
    暖房のメイン器具には薪ストーブを採用しました。薪ストーブは、1台で住まい全体を温めるほどの能力を持つうえに、室内の空気を汚染することもない、評判の良い暖房器具です。しかし同時に、趣味性が高く、暖めるには手間も時間も必要で、しかもかなり高額な器具です。単なる暖房器具として選択するにはハードルの高い器具ではありますが、ほかの器具にはない楽しみを提供してくれるのも薪ストーブの特徴です。 また、薪ストーブを据える場合には、1台で建物全体を暖められるように、建物本体にも空気(風)の通り道をしっかりと設計するなどの工夫が必要です。

    府中の家の空気(風)の通り道の計画をご紹介します。下の写真は薪ストーブが座っている居間・台所と空間が一体になっている食堂から、奥の個室(板間10帖)方向を見たところです。空気は暖まると上に登り、冷えると下に降りる性質がありますので、空気を動かすためには上下の空気の通り道に高さの差が必要です。 暖まった空気が通る上部の空気(風)の通り道は板間10帖のロフト部分にあって、板間10帖と本棚手すりのスリットや扉のない出入り口でつながっています。食堂側の暖気はこの格子を通ってロフトに入り、ロフトと板間10帖を充分暖めて、暖気が冷えるとともに床方向に下がり、出入り口の扉から食堂側に戻り、また暖まって格子から入ってくる・・・という循環を繰り返します。板間10帖を暖める必要のないときには扉を閉めておけば暖気の循環は起こらず、エネルギーロスは少なくてすみます。冷房時はこの逆の循環が起こりますが、いずれにしても扉の開け閉めで制御できます。

    府中の家での具体例を一つ。薪ストーブ本体の温度が270度ほど、薪ストーブの座る居間の室内温度が24度の時。府中の家は、すべての居室が天井付近の空気(風)の通り道でつながっていますから、すべての部屋が同じ温度になるかというと、そういうわけではありません。現実に、南側の板間の室温は8.5度でした。ちなみに、当日の外気温は5度。
    空間がすべてつながっているというのに、部屋の温度がそれぞれに違うってどういうこと?と疑問に思われるでしょう。空気は暖められると上昇します。そして、冷たくなると下に降りてきます。ですから、暖かい空気の入っていくところと、冷たい空気の出て行くところがないと、その部屋は暖まらないのです。つまり、部屋の扉を開けないと、たとえ天井面がつながっていても部屋は暖まらないということです。
    空気(風)の通り道がしっかりと設計されていると、各部屋を小さな小部屋に区切って個別にエアコンを付けなくてもそこそこに室温の制御が出来ます。夏場には、扉を少し開けておくと空気(風)の通り道が熱い風の逃げ道になり、室温の上昇を緩和します。エアコン(冷房)使用時にも扉を閉めておけば、エアコンの冷気が空気(風)の通り道から逃げ出すことはありません。このへんが空気(風)の通り道の妙。設計段階からしっかりと計画しておくことが必要です。

    ・石を貼る。
    石にはたくさんの種類がありますので、使用ヶ所、用途、得たい雰囲気・性能などに合わせて使い分けることが必要です。たとえば、花崗岩(御影石)のような硬い石は柱を支える束石や階段の段石などの大きな力や多くの摩耗が伴うヶ所に向いていますし、大理石などの柔らかく模様や色の変化に富んだ石は室内の壁などに適します。また、大谷石のような軽石の類は加工が容易で断熱・耐火性も高いことから土蔵の外壁やお風呂の内壁などに使われることもあります。府中の家でも、いくつかの種類の石を、色や形を変えて使用しました。


    玄関アプローチの階段は、蹴上げが10センチほど踏面は50センチほどの緩い勾配にして、金錆石(黄色味を帯びた花崗岩)を段石に使用しました。金錆石は硬く、階段のように激しく使われるヶ所の使用に適した石です。表面は雨に濡れても滑ることがないように小さな凸凹がたくさんあるコタタキという仕上げにしています。金錆石はアプローチ階段のほかにも、テラスの縁石としても、植え込みの境を形作る石としても使用しましたが、それぞれにピンコロ(10センチ角の割石)、ボーダー(10センチ角断面で30センチほどの長さ)と形の違うものを使用しています。室内にも台所の壁として黄色味の大理石を磨き仕上げして貼っています。 天然の素材は主張しすぎることがなく、耐久性が高く手間いらずで、周りとの馴染みも良いので飽きの来ない建築材料だと言えるでしょう。

    ・土間仕上げ 真砂土モルタルを選ぶ。
    玄関やアプローチの土間は真砂土モルタルを仕上げ塗りし、古民家の土間のタタキのような素朴な風合いに仕上げました。 真砂土モルタルは砂と白セメントに地域でとれる黄色味を帯びた真砂土を現場配合して作るもので、既製品が出回っているわけではありません。材料が現場調合になるので、都度にとれる土の色などの影響を強く受け、毎回色合いや風合いが微妙に異なります。ですから、産地ごとに違う真砂土の種類・色合いや配合を確認しながら、必ず見本品を作り最終の決断をします。

    いくつか作った見本の中から今回選んだのは、少し白いめの、表面をざらっと仕上げた品物です。配合や出来具合にばらつきがあっても、元が砂とセメントと土なので、工事費は通常のモルタル仕上げとそんなに変わりません。ただのセメント色の床では愛想がない、と思われる方にも良い選択肢になる品物だと思います。ただし、モルタル仕上げに真砂土を混ぜ込んだ分強度が低下しますので、ひび割れの心配をしなくてはなりません。古民家のたたきに細かいひび割れがたくさん入って得も言われぬ味わいとなっているように、これも味の内・・・と許容していただける方に限る仕上げと言えるかもしれません。

    ・アプローチにアルミ庇を付ける。
    府中の家は、平屋の平面に切り妻の大屋根を掛けた質実剛健な意匠の建物です。ですから、全体に単調になってしまわないように玄関庇は少し変化のあるものを造ろうと、計画段階からいくつかの形を検討しました。(府中の家外観を整える。 参照)使い勝手として、雨の日にも車を降りて濡れることなく玄関先にたどり着けるように・・・というのが条件です。 当初は、カーポートに建築工事で屋根をかけて、建物と一体化してしまうプランを考えましたが、それでは全体に大仰で重々しい印象になる上に、工事費が高額になります。そこで、木製のフレームを組んで、その下にアルミの庇を吊り下げる意匠にしました。カーポートはアルミ製の既製品を採用します。こうすると、全体に軽妙でスッキリと仕上がりますし、工事費も節約できます。

    庇本体はアルミの3ミリ厚の板を折り曲げ成形して作りました。アルミは軽量で、木製フレームにさしたる負担もかけませんし、厚みも充分な品物を使用し、上部には見えないようにして補強も入れましたので、強度もしっかりとしています。アルミそのものは錆の心配も少ないのですが、折り曲げ部分に目には見えない小さなクラック(ひび割れ)が発生する可能性を考慮して、全体をシルバーの焼き付け塗装仕上げとしています。

    ・木製の雨戸戸袋 鏡板を付ける。
    木の家を木の家らしく見せるにはいくつかのポイントがあります。雨戸戸袋の鏡板もその一つです。 開口部を木製にした場合には開口部材のすべてが木製になりますので、全体にとても木の家らしく何の心配もありません。しかし、木製の外部建具は断熱性能が高くスッキリと納まるというメリットとともに気密・水密性能が低く高額であるというデメリットも有します。そこでアルミサッシの採用に至るわけですが、木の家らしさを演出する上でネックとなるのが雨戸戸袋の鏡板です。

    通常、アルミサッシを採用した場合、雨戸戸袋の鏡板はスティール製かアルミ製が標準です。しかし、それをそのまま採用したのでは木の家らしさはずいぶんとスポイルされてしまいます。そこで、アルミの雨戸枠はそのままに、鏡板だけを木製に変えるのです。材質は杉、仕上げは透明の木材保護材です。このような工夫をすることで、防水性や耐久性はそのままに、雨戸はすっかり木の家らしい意匠に生まれ変わります。

    ・木製デッキを付ける。
    掃き出し窓の外部には木製のデッキ(濡れ縁)を設えました。木製デッキ(濡れ縁)は屋内と屋外をつなぐワンステップになり、空間の使い勝手が格段に良くなりますし、陽当たりの良いデッキ(濡れ縁)でひなたぼっこ・・・なんて、時間の過ごし方も出来て、住まい方に心の余裕を与えてくれる場所にもなります。また、室内に居ても掃き出し窓のすぐ前に木製デッキが広がりますので、その部屋が実際の大きさよりも広くなったように感じる視覚効果も生みます。

    木製デッキ(濡れ縁)はすべての材料が水に強い龍神産の桧材で出来ています。仕上げには透明の木材保護剤を塗っています。2メートルを超えるほど大きく軒先が出た部分に位置していますので、劣化は相当に遅らせることが出来ると思いますが、時の経過を経て、ほかの外部に使用した木材と同じようにグレーに退色し、10年を超える頃には部分的に補修が必要になるかもしれません。 公共施設の外部ベンチのように、20年を超えて腐食を免れる外国産材もありますが、相応に高額です。それなら10年ごとに補修・交換しても工事費総額は変わらないし、気分一新にもつながるし、森林資源の循環にも役だって環境にも地元経済にも貢献できる・・・という思いで私は国産材(地域材)選んでいます。

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