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『木造は鉄骨造、鉄筋コンクリート造と比べて地震に弱いのか』問題

当事務所では木造をはじめ、鉄骨造、鉄筋コンクリート造の建物についても設計を行っていますが、木造の建物を設計しているときにしばしば

木造建築は地震に弱い、、と聞いたけど大丈夫でしょうか?

木造は地震に弱いから鉄骨造や鉄筋コンクリート造を検討している。

鉄筋コンクリート造だから地震には強いですよね。

といったお声を頂くことが少なくありません。
多くの人がなんとなく、

耐震性では木造よりも鉄骨造の方が強くて、鉄骨造よりも鉄筋コンクリート造の方が強いのが常識。

と思っておられるように感じます。
今回の記事では木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造といった建築の構造種別によって耐震性に違いがあるのか、という点について掘り下げていきたいと思います。

満たすべき構造性能は同じ

結論から申し上げると、

高さ60m以下の建築物については木造でも、鉄骨造でも、鉄筋コンクリート造でも建築基準法上、満たすべき構造性能は同じです。

構造の種類、規模の大小によらず、60m以下の全ての建築物は建築基準法施行令第36条の3及び83条第1項に定められている荷重及び外力に対する要求事項を満たす必要があり、そこに構造種別による違いはありません。つまり、木造でも、鉄骨造でも、鉄筋コンクリート造でも建築基準法上、満たすべき構造性能(法によって定められている荷重及び外力に対する要求事項)は変わりません。

ただし、建物に作用する地震力は建物の重さに比例するため、建物の重量が重いほど地震力(地震時に建物に作用する力を地震力といいます。)は大きくなります。建物重量は用途や規模によっても変わりますが、床単位面積あたりの重量比は概ね、
 
鉄筋コンクリート造:鉄骨造:木造=4:2:1
 
になります。つまり、鉄筋コンクリート造の建物重量は同じ大きさの建物であれば、木造の建物重量の約4倍となります。よって、同じ大きさの建物であれば、鉄筋コンクリート造の建物には木造の建物の4倍の地震力が作用することを想定しなければなりません。逆にいうと、木造の建物は重量が軽いため、想定される地震力は鉄筋コンクリート造の1/4となります。よって、鉄筋コンクリート造の1/4の地震力に耐えうる構造計画を行えばよい、ということになります。
 
大切なのは木造でも、鉄骨造でも。鉄筋コンクリート造でも建物に作用する地震力などの外力に対して適切な構造計画を行うことです。

何を基準に判断するべきか?

構造種別によって耐震性の優劣がつかないのであれば、どんな指標で建物の耐震性を判断すれば良いのでしょうか。

ズバリ、基準に対する安全率です。

要求されている構造性能に対してどれだけ安全率(余裕)を見込んでいるか、が重要です。(安全率も突き詰めていくと、地震力に対する安全率なのか、建物の変位に対する安全率なのか、など色々あるのですが、多くの場合、地震力に対する安全率を指すことが多いです。)
 
つまり、『安全率1.5の木造建築』と『安全率1.0の鉄筋コンクリート造建築』があった場合、建物の耐震性能としては
 
『安全率1.5の木造建築』の方が安全率1.0の鉄筋コンクリート造建築』よりも強い
 
ということなります。 

品確法による耐震等級

住宅を検討されたことのある方であれば、一度は耐震等級という言葉をお聞きになったことがあるのではないでしょうか。住宅品質確保促進法(通称・品確法)では耐震等級という名称で地震力に対する安全率を設定しています。その基準は以下の通りです。

耐震等級1
数百年に一度発生する地震の地震力に対して倒壊、崩壊せず、数十年に一度発生する地震の地震力に対して損傷しない程度。(建築基準法同等)数百年に一度発生する地震(東京では震度6強から震度7程度)の地震力に対して倒壊、崩壊せず、数十年に一度発生する地震(東京では震度5強程度)の地震力に対して損傷しない程度。(建築基準法同等)

耐震等級2
数百年に一度発生する地震(東京では震度6強から震度7程度)の1.25倍の地震力に対して倒壊、崩壊せず、数十年に一度発生する地震(東京では震度5強程度)の1.25倍の地震力に対して損傷しない程度。

耐震等級3
数百年に一度発生する地震(東京では震度6強から震度7程度)の1.5倍の地震力に対して倒壊、崩壊せず、数十年に一度発生する地震(東京では震度5強程度)の1.5倍の地震力に対して損傷しない程度。

耐震等級3は安全率1.50、耐震等級2は安全率1.25、耐震等級1は安全率1.00を見込んでおり、木造でも、鉄骨造でも、鉄筋コンクリート造でも安全率に応じて、この中のどれかにカテゴライズされます。
 
『鉄筋コンクリート造だから無条件で耐震等級3になる。』
『鉄骨造だから、耐震等級を1つ上げても良い。』
『木造だから耐震等級を1つ下げなければならない。』
 
などの構造種別による影響はありません。端的に、安全率に応じて決まります。

まとめ

今回の記事では『木造の建物は鉄骨造、鉄筋コンクリート造と比べて地震に弱いのか』という素朴な疑問に関しての考察を記事にしました。記事の要点をまとめると

  • 法的にみると、高さ60m以下の建築基準法で定めている満たすべき構造性能は構造種別にかかわらず同じ。
  • 構造種別に関係なく、要求される荷重及び外力に対してどれだけの安全率を見込んでいるかが重要

となります。
建物の耐震性が気になる場合は木造や鉄骨造などの構造形式と共に、地震力などの外力に対してどれくらいの安全率を見込んでいるかを確認してみるのもよいかもしれません。

参考文献

建築物の構造関係技術基準解説書(国土交通省国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人建築研究所 監修)
木造住宅のための住宅性能表示(日本住宅・木材技術センター)