田辺市に建つこちらの古民家は、築100年を越え、大きな改修は今回が2回目だそうです。
本格的な改修のほかにも軽い増築や補修を重ねた形跡があり、大切に手を入れながら住み継がれてきた経緯が察せられます。
ご家族の暮らしの歴史が感じられる空間が、そこにありました。
お若いご夫妻が新たな暮らしを始められるにあたり行った、今回の改修のポイントをご紹介いたします。

「古民家の改修/田辺市新庄町」の改修点

（Mo-ku通信vol’38）

改修の“まえ”と“あと”

おばあちゃんが長年暮らしたお家へ、30代半ばのご夫妻が新しく入居されるにあたって手を入れたところです。

デザインの更新

外観を軽快に

外観の変更はできるだけ控え目に。
日本瓦葺きの屋根に腰の焼き杉板、上部は塗り壁風に仕上げた。
状態のよかった既存瓦屋根へは工事の手を入れず、庇や下屋は補修をしながら生かした。
この家で一番太陽がそそぐ東南の角は、押し入れになって壁で閉ざされていた。それを縁側に解放し、古来はこうであったろう柱建てのこしらえへ戻した。
面影は残しつつ、軽快感が加わった。

デザインの更新

玄関周りを新しく

玄関戸をアルミの既製品から木製建具の引き戸に変更。
ホールへ上がると、右側は一面の収納。
左側は仏間へ、突き当たりはLDKへと繫がる。この辺りは、改修前の使い勝手をそのままに、仕上げのみ一式手直しをかけた。
花が生けられた突き当たりの飾り棚は、今回新たにできたスペース。空間に奥行きと華やぎがうまれた。

構造体の再生・補強

床下と構造材の手入れ

石の上に柱をのせているのみで固定はしていなかった。古来の考え方を尊重し、柱は石の上に置くだけの形式を引き継ぐことにした。
土間コンクリートを打設し、床下からの湿気の上がりを止める。
建物全体のたてり起こし(傾きを直す作業)を実施。
経年の劣化・損傷、シロアリの食害が激しい部材は新しい材に交換した。土台・束・束石は、太く安定性の良いものへ一新。

断熱・調湿性能の引き上げ

外断熱と通気層、室内の仕上げ

土壁は蓄熱・調湿の性能に優れているが、断熱性能はさほど高くない。
今回は土塗り壁をそのままに、住まい全体を外断熱でスッポリと覆い、断熱層と外壁の間には通気層をつくった。
元の優れた蓄熱・調湿性能を最大限に生かし、断熱面でも充分な性能を備えた。
前の改修で新建材の天井が張られ、立派な梁組は天井裏に隠れていた。天井をとり、構造材をあらわしてオープンな空間が実現した。

ライフスタイルの反映

若い世代が暮らしやすい間取りへ

一部を減築。
間仕切られた和室が並ぶ間取りから、若い家族が快適に暮らせる間取りへ変更。
客人が訪れる公共性のある仏間と、家族だけのプライベートなゾーンを区別し、プライベート空間は吹き抜けを中心とした繋がりある大空間とした。
１階には、仏間・縁側、一連なりのLDKと土間、水廻りなどがある。
２階には寝室と板間。
将来は仏間に夫妻の寝室を移せば平屋暮らしも可能。

本来の姿を取り戻す

和室を明るく開放的に

「今の屋内は暗く感じる。明るく暮らしたい」というご要望もあり、この家で一番太陽がそそぐ東南の一角を、押し入れから縁側に戻した。
形跡からすると、元々はこのような造りであったものを、住み継ぐ中で閉じて押し入れに変更したように見受けられる部分だった。
縁側が広がることで視界に奥行きが増し、充分に陽光を取り入れられる開放的な空間が実現した。
風通しも良くなり、和室の居住性も向上した。
建物の外観には、軽快な印象を取り戻すことができた。

設備の刷新

配管・配線、設備類の一新

キッチンは今回の改修で間取りを大きく変更したことにより、場所が変わったが、壁付けの様式は引き継いだ。
キッチンと食器棚、洗面台などは木製のオリジナルを造りつけた。
トイレや浴室など水廻りは他も一式新調。
本体だけでなく、給排水の配管もヘッダ管方式で新たに施工。
電気設備も配線から一式やり替え、現代の使用にたえる機能性とメンテナンス性をもたせた。

建物には、経年劣化などで建物が傷んでしまい壊れてしまうハード面での寿命と、時代や世代の価値観についていけなくなることで実用できなくなってしまうソフト面での寿命があるといわれます。
改修では、単に見た目を変えるだけでなく、ハード面でもソフト面でも現役で役目をまっとうできる時間を伸ばせます。構造体を健全に再生し、性能面や設備の不足を建物に合った方法で補います。
昔ながらの古民家の骨組みをもつ木の家には、暮らす家族の個性やライフスタイルに寄り添い、多様な変化を許容できる柔軟性があります。愛情と手間を注ぐことで、住まいはよみがえります。