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土塗り壁はシックハウス対策として有効か?

新しく家を建てるときに気になるのは、家族が安心して暮らせる住まいかどうか、ではないでしょうか。日本では2003年の建築基準法改正により、シックハウス症候群対策としてホルムアルデヒドなど一部の揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)に基準が設けられました。現在の住宅では、揮発性有機化合物(VOC)を含む建材の使用を制限し、換気扇などの機械換気設備による換気を行うことで室内の揮発性有機化合物(VOC)濃度を一定以下に抑える必要があります。最近では揮発性有機化合物(VOC)を含む建材自体が少なくなってきているのですが、家を建てる材料そのものに「空気をきれいにする力」があれば、より安心な住まいづくりにつながります。
そこで注目されているのが、土塗り壁です。土塗り壁は調湿効果で知られていますが、今回ご紹介する研究では揮発性有機化合物(VOC)を吸着して濃度を下げる効果が科学的に示されました。
本記事では、実験によって明らかになった土塗り壁の揮発性有機化合物(VOC)吸着性能を、わかりやすくご紹介します。新築やリフォームを検討している方にとって、より安心な住まいづくりの具体的なヒントになるはずです。

8種類の試験体を作成

この実験では土・砂・スサ(水分を保持するための繊維材料)を基本に、40mm×40mm×160mmサイズの試験体を作成しました。

試験体の作成にあたっては土塗り壁の材料に

・竹炭
・くん炭
・貝灰
・消石灰
・珪藻土3種類(珪藻土A、珪藻土B、珪藻土C)

の7種類の材料を混ぜた試験体と、何も混ぜていない試験体の計8種類の試験体で揮発性有機化合物(VOC)等吸着効果を比較しました。

揮発性有機化合物(VOC)等ガスの濃度変化を測定

試験体を厚さ15mmに切り出し、ガス分析用サンプリングバッグに揮発性有機化合物(VOC)等ガスとともに封入して濃度変化を測定しました。
対象としたガスは以下の3種類です。

 ホルムアルデヒド
接着剤や合板に含まれる揮発性有機化合物(VOC)
刺激性があり、長期的には健康被害を引き起こす。

トルエン
塗料や接着剤に含まれる揮発性有機化合物(VOC)
吸入により中枢神経系に影響を与える。

アンモニア
し尿臭の主成分である有害ガス。
無機化合物のため揮発性有機化合物(VOC)ではないが、高濃度では不快感や健康被害を及ぼす。

温度20℃、湿度70%の条件下で1時間置いた試料ガスを用い、24時間にわたって濃度変化を追跡しました。
ホルムアルデヒドとトルエンは検知管法、アンモニアはイオンクロマトグラフで測定しました。

結果

土塗り壁は揮発性有機化合物(VOC)等の吸着に関して以下の特徴を示しました。

ホルムアルデヒド

すべての供試体で濃度が大きく低下しました。混和材による差は小さく、わずかに消石灰を加えた試験体における濃度が低いのは消石灰とホルムアルデヒドによる化学反応(ホルモース反応)によってホルムアルデヒドの減少が起きている可能性が示唆されています。

トルエン

混和材の影響が大きく、特に竹炭やくん炭を混ぜた場合には吸着性能が顕著に向上しました。珪藻土を加えた試験体も効果が見られましたが、貝灰や消石灰では改善は見られませんでした。

アンモニア

いずれの試験体も高い吸着性能を示しました。ただし、消石灰を加えた試験体はわずかに性能が低下ており、消石灰自体がアルカリ性のため、アンモニアなどのアルカリ性の気体に対しては吸着効果がわずかに低くなる可能性が示唆されています。

土塗り壁は高いVOC吸着性能を持つ

実験の結果から、以下のことが明らかになりました。

・ホルムアルデヒドやアンモニアに対しては、無添加でも十分な吸着性能を発揮する。
・トルエンに対しては、竹炭やくん炭を混ぜることで吸着効果が大幅に向上する。
・消石灰はホルムアルデヒド低減に有効だが、アンモニアに対しては効果が弱まる可能性がある。

調湿効果に加えて「揮発性有機化合物(VOC)を吸着して濃度を下げる効果」が科学的に確認されたことで、土塗り壁は現代の住宅でも再評価される価値のある工法といえるでしょう。ただし、この実験では高濃度の揮発性有機化合物(VOC)等を用いているため、実際の住宅環境にそのまま当てはめることはできません。また、再放散や低濃度条件での性能検証が今後の課題となりそうです。
ホルムアルデヒド、トルエン、アンモニアなどに過敏な方は土塗り壁の採用を検討してみてもよいかもしれません。。

用語解説

VOC(Volatile Organic Compounds)
揮発性有機化合物のこと。
建材や家具、接着剤などから揮発し、シックハウス症候群の原因となる。

ホルモース反応
ホルムアルデヒドとアルカリ(ここでは消石灰)が反応して濃度を減少させる化学反応。

参考文献

青木貴均,石川伸介:塗り壁材等を用いたVOC吸着効果に関する検討,安藤建設技術研究所報 Vol.18,2012.