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室内干しは暖房時の加湿対策として効果的か?

冬の住まいで多くの人が抱える悩みの一つが「乾燥」です。特にエアコン暖房を使用すると、快適な温度は保てても湿度が下がり、肌荒れや風邪など健康への影響が懸念されます。
では、日常的な生活行動の一つである「洗濯物の室内干し」は、冬季の乾燥対策としてどれほど効果的なのでしょうか。空気調和・衛生工学会大会で発表された「室内発生水分を用いた湿度環境に関する研究(第1報)」では、実際に室内干しが湿度環境に与える影響を実測データで検証しています。本記事では、その結果をもとに「洗濯物の室内干しは加湿対策として有効か」を解説します。
洗濯物に所定量の水分を含ませ放湿
実験は大阪市内の実大実験棟にある約9㎡(天井高2.4m)の部屋で行われました。実験棟は次世代省エネ基準の等級4満たす性能を有し、冬季の暖房を想定してエアコンを使用しました。
実験の際の条件は以下の通りです。
・エアコンは20℃または23℃の2パターンに設定して運転
・上記暖房温度(20℃、23℃)ごとに換気扇を使用した場合としない場合を計測
・洗濯物は乾燥重量2kgの衣類を使用
・洗濯物に水分を含ませ、含水後重量3.3kgとする。
・エアコンの吹出し気流が直接衣類に当たるように洗濯物を配置
上記条件下で洗濯物の室内干しを行った際の温度・湿度・放湿量を測定し、加湿効果を評価しました。
結果
実験の結果はこのようになりました。(※グラフは20℃暖房の場合のみご紹介します。)
相対湿度の変化

室内の相対湿度は60〜80%RHの範囲で推移し、特に温度の低い天井付近では相対湿度が高めに分布しています。
絶対湿度の変化

実験開始(エアコン及び換気扇電源オン)から20〜25分で、洗濯物からの放湿により絶対湿度が大幅に急上昇しました。その後、90分間でさらに緩やかに上昇しました。
換気の影響


換気を行うと換気を行わない場合と比べて絶対湿度の上昇は40~50%程度に抑制されましたが、洗濯物の乾燥が促進されるため総放湿量は増加しました。

また、温度が高くなるほど、総放湿量は高くなることもわかります。
加湿効果はあるが制御は難しい
実験の結果から、以下のことが明らかになりました。
・洗濯物の室内干しは、冬季のエアコン暖房による乾燥環境を短時間で改善できる強力な加湿効果を持っている。
・ただし、最初の20~25分で洗濯物から急激に放湿され、その後、エアコン暖房の出力低下に伴い放湿は穏やかになるため、
快適とされる50%前後の相対湿度を維持するには換気制御など何らかの対策が不可欠。
今回の実験は約9㎡(天井高2.4m)の部屋で行われていることから、室内の相対湿度が高い範囲で推移し、換気設備などによる制御の可能性が指摘されているのですが、リビングなどの室容積の大きい部屋で室内干しをすることで、相対湿度があがりすぎず、乾燥しすぎでもない、ちょうどよい具合の湿度にすることができるかもしれません。少なくとも一時的ではありますが、乾燥状態は緩和されるでしょう。
今後の研究の展開として、珪藻土やエコカラット、木材などの内装の仕上げの違いによる室内湿度環境を変化の違いも興味深いところです。
冬のエアコン暖房時に乾燥していると感じたら、洗濯物の室内干しを試してみるのもよいかもしれません。
用語解説
相対湿度(Relative Humidity, RH)
空気が保持できる最大水蒸気量に対して、実際に含まれている水蒸気量の割合(%)
40〜60%が快適とされる。
絶対湿度(Absolute Humidity, AH)
空気1kgに含まれる水蒸気の質量(g/kgまたはg/m3)。
参考文献
鈴木祥之,中治弘行:木造住宅土塗り壁の実大実験による耐震性能の検討,日本建築学会構造系論文集,No.515,pp.115-122,1999.1.