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柱や梁が出来るまで。
・山の木が木材になるまで。
いちばん最近に仕上がった図面は林業家の自宅です。林業家ですから、家づくりに使う木材は全て自前で調達します。山に植わっている木が家づくりに使われる木材になるまでの工程は普段目にすることがあまりないと思うので、今回は山の木が建材になるまでの段取りをお伝えしたいと思います。
・原木を伐り出す。
山に植わっている杉・桧がみんな建築用材として使える訳ではありません。特に柱・梁などの構造材とするには木の繊維が充分に成長して強くなった55年~60年生以上の木が必要です。若い木は、たとえ太くて立派に見えても、大きな力を負担することができないことが多いからです。。
山で伐り出された原木は、通常は3m・4m・6mあるいは必要な長さに玉切りされた後に、多くは原木市場に出荷されます。それを製材業者が購入して商品に加工するのですが、今回は林業家の山から直接製材所に運ばれてそのまま加工されます。
・皮をむく。
最初は皮むきです。以前には杉や桧の皮も杉皮・桧皮として外装材・屋根材などに利用されたものですが、最近ではそんな利用も少なく、一部はバークたい肥などとして利用されるものの、ほとんどが産業廃棄物として処理されているようです。珍しい例では、皮の高耐久・高断熱な特性に目を付けて、粉砕して再加工し、断熱材として再使用できるようにした例もあります。
・製材する。
次には製材です。材によっては反りや曲がりなどの変形がでるものもあるので、必要寸法よりひと回り大きな寸法でまずは荒挽きされ、乾燥などの工程に回ります。現場で使用する寸法になるのは最終加工時です。
通常はちょうどよい太さの原木の中央部から芯持ちで柱・梁などの大きな断面の部品をとり、その辺材から野材や造作材・化粧材などをとることが多いです。大径木から芯がなく柾目で節の少ない化粧材などをとる時には、木の大きさと必要材の効率的な生産に適した木割を事前に入念に計画的に行い、製材をします。下の写真は大径木から化粧材をとる時の参考木割です。大径木は高価ですのでロスが少ないように特に気を遣うところです。
・乾燥させる。
必要材料が揃うと乾燥工程に入ります。一般には、納期が早く含水率が低く一律で、変形などで使えなくなる木が少ない(歩留まりが良い)のが人工乾燥の特徴です。天然乾燥では、天然木特有の色味・香り・粘りなどを残すことができますが、時間も手間もかかり、歩留まりもよくないことが多いです。現在では、商業ペースに乗りやすい人工乾燥がほとんどで、天然乾燥は全体の1~2%だといわれています。
乾燥には経験の積み重ねによる特殊なノウハウが必要です。人工乾燥では機械の性能や特徴ももちろん仕上がりの良し悪しに影響を与えますが、乾燥機の使い方や使用環境が材の出来具合に大きな影響を与えることがあるからです。
人工乾燥による乾燥では、材の寸法を出来るだけそろえることが肝要です。大きな材料と小さな材料を同時に乾燥室に入れてしまうと、大きな材料は乾燥不足で、小さな材料は過乾燥になる・・・といった現象が起きるからです。つまり、人工乾燥は同じような種類・寸法の建築用材の大量生産に適していて、個別の家ごとのいろいろな樹種・寸法のものを少量生産することは得意ではないようです。。
・今回のむつかしさ。
きれいに積み上げられた大量の乾燥済みの木材。通常はこれらの材の中から家づくりに必要な材料を選び出して1軒の家に組み上げます。しかし、今回は少々事情が違って、運び込まれた原木からいろいろな寸法の1軒分の材料を造り上げなければなりません。木材生産現場の腕を問われるのは製材技術よりむしろ乾燥技術の方でしょうか・・・出来上がりが楽しみです。