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旧中筋家住宅 Ⅷ(大改修)。

旧中筋家住宅は主屋が江戸時代の末期(1852年)の建造だといわれていますので、現在ではすでに築後172年を迎える建物です。

現在の主屋が建造される60年ほど前(今から230年ほど前)にはすでに旧の主屋があり、蔵などはその当時から残っているものもあるのだそうです。その後に何回か修理の手は入ったようですが、本格的に主屋の修理が始まったのは2000年から。その後10年かかって約9億円の修理費を費やして大修理が行われました。

大修理が行われたころには建物の痛みもさすがに激しく、所有者も中筋家の方から変わっていたようですが、驚くべきことに大修理の何年か前までは現実にここで住まわれて生活されていたのだそうです。

修理は屋根や壁を外して床を抜いて、柱・梁などの主要な骨格部分にも及ぶ本格的なもので、当時の写真を見ても大変だった様子が伝わってきます。

写真は傷んだ柱の根元を部分的に入れ替える根継ぎの後です。部分補修の可能なヶ所は部分補修で、屋根などの全体的に傷んでいるところは全体にやり替えて、梁などで割れなどが激しいところには接着剤を注入して・・・と伺いました。それらの手法は民間で古民家再生を手掛ける私たちにも大いに参考になるところです。

この住まいが建てられた170年ほど前と、現在とでは住宅建築(木造建築)を取り巻く環境は大きく違います。例えば現代住宅は、基礎をコンクリートでしっかりと造ってそこに木造部分を止め込み、基礎も含めて大きな外力に耐える「耐震」という考え方で多くが建てられています。しかしこの建物は、基礎石の上に木部が乗っていて、木造部分に与えられた外力が基礎などに伝わりにくい「免振」という考え方に近い工法で建てられています。

木造建築物の免震構造はまだ一般の設計者が気軽に使える明確な指針がありません。特に古民家再生などの場合には尚更です。写真のような鉄の補強部材は木部の変形を抑制するためのものでしょうが、あまり固めてしまうと木部と基礎石との間の動きが激しくなりそうです。木造は、特に古民家の再生はこの辺が難しいところ、設計者のご苦労がしのばれます。

さて、この建物の見学がとても興味深かったために、少しだけブログでご紹介・・・のつもりで始めた旧中筋家住宅の記事もⅧを迎えました。長い間辛抱にお付き合いくださった方々にご感謝申し上げ、今回はこの辺で失礼することにします。ありがとうございました。