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旧中筋家住宅 Ⅶ(表門と南庭)。

旧中筋家住宅は近郷を治めた大庄屋の住まいですから、大庄屋としての公務を司る空間(建物)ももちろん敷地内にあります。それがこの表門です。

表門は東西に15間の長屋門形式の建物。中央のケヤキの1枚板の見事な門扉を入ってすぐの右手(東側)は取次の土間、次の間からは畳が敷かれた3つの間(執務室)が続きます。

一番手前の畳間には実務をこなす役人が控えていたのでしょう。中の間には上役、そして一番奥の間に中筋家の人がいたようです。いずれの間もしっかりと造られていますが、奥の間に行くにしたがって細工には手が込んできます。

土間の隣の畳間は実務に専念するためか、あまり大きく南の庭とはつながっていませんが、上役の居たであろう中の間と、当主の居たであろう奥の間からは縁側を通して見事な南の庭が見渡せます。

ここから見る南の庭の景色も特徴的です。主屋の床高が表門より高いことと、そもそもの地盤が一段高くなっていることから、上下のけじめはしっかりと感じられ、主屋が庭のむこうに浮いているようにも感じます。

主屋の表座敷(上の間)で過ごされていたご主人が、南の縁側に出てそのまま庭に降り、東の壁沿いの百日紅(サルスベリ)の咲く小道を、季節の風雅を楽しみながら、実務を行う表門の奥の間まで通われていたのでしょう。

門を入って西側は役人(使用人)の詰め所です。ここもしっかりと造られていますが、公務を執り行う東側の各部屋とは明確な造り分けが行われています。例えば天井仕上げ一つとっても、同じ竿縁天井は採用していますが、東側はきれいな柾目の天井板が張られているのに対して西側は板目の天井板になっている・・・といった具合です。公私のけじめは現代人よりよほどしっかりとしていたようです。

役宅と住まいとは同じ敷地内に存在しても、心の距離をしっかりと保つ工夫が随所に適切に施され、きれいに住み分け・造り分けがなされています。世知辛い現在に住まう私たちも見習いたいところですね。