桜陰緑風の家
- 住宅
- 吹き抜け
- 階層:木造2階建

住まい手インタビュー
陽だまりの色が時を知らせる
あったかいでしょう!なんの暖房もつけてないんですよ。ウチは太陽さえ出ていれば真冬でもポカポカ。薪ストーブは夜の七時以降しか焚かなくていい。
南向きで吹き抜けから一日ずっと光がさして、家の奥深くまで明るいです。朝日の頃には和紙の白壁が真っ赤に染まります。私達は木が好きで……柱や梁とのコントラストが際立つ風合いがキレイです。夕日がピンクやオレンジに沈むまで、瞬間瞬間の太陽の色が家中に満ちています。
毎年、海に登る初日の出を二階から眺めます。
朝方は低い陽ざしで銀色に輝く海が、お昼には真っ青になるのを眺めたり……寝転んで吹き抜けを見上げても、天井が高くて気持ちいい。本当に良い家を建ててもらった。
家に帰りたい。
どこに居るより自宅の居心地がいい。元々はよく出かけたりもしていたんですが、よそで泊まっても帰りたいくらいで、旅行はゼロになりました。
家と庭でずっと遊べて……楽しすぎます。
一年目は家族総出でツルハシを担ぎ庭を開墾!開拓民の気持ちをヒシヒシと体感しました……石ばっかり出るんです。一輪車で何十杯という土を運び、植木を買ってきては植え。掘り出した石はピラミッドの礎石みたいに丸太の上を転がしてデッキ下まで運びました。それが今の靴脱ぎ石です。そして薪棚を作り、畑を拓き……週末を待ちきれず野外のライトを照らして夜な夜な作業しました。
一年目二年目とどんどん充実してきて、今度は初のハチミツもとれそうです。
最近は家の中で木工にも熱中しています。薪のストックから良さそうな木を選んで素材に。製作の木屑はストーブへくべてしまう。灰は畑に。
気がついたら私(奥さん)、20くらいしかなかった握力が今は35キロあるんです……!
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▲1階冬の朝のLDK
南向きの大きな開口から、庭越しに太平洋の眺望が広がる。
冬は一日中陽がそそぎ、吹き抜けを通して北の奥のキッチンまで陽だまりが満ちる。夏は直射日光が入らず、木陰の涼しさ。
広くて深いデッキ
広く奥行きのあるデッキは重宝します!部屋の延長のように使える。道具を置きっぱなしにしても通ったり座ったりできる余裕が残るし、軒の出も深いおかげでそこそこの雨でも濡れません。ゴハンを食べたり、くつろいだり。前の住まいにも縁側がありましたが、屋内だとキレイに使わないといけないでしょう?その点、屋外は気分的にも区切れて別の空間としての使い勝手が便利です。
▲2階デッキ
台風に備え、端から端まで一面に閉じてしまえる雨戸を造作。
ここからの眺めも格別。来客時は、客人の目の届かないスペースとして、洗濯物の避難場所などとしても活用。▲1階デッキとご家族手作りのバーベキューセット
作業中の庭仕事の道具を常備しておいたりバーベキューの材料を並べて置いたりと、外と内を繋ぐ中間的な空間として役立っているとご夫妻。
用途に合う環境が整っている。
ウチで一番日が当たらず寒い北の区画は……二畳分の収納部屋!すごいですよね。収納にはその環境がピッタリです。あたたかいキッチンでは傷みの早い食べ物も収納部屋で保存。玄関脇にあり身支度に必要な物も置きます。すぐそこがリビングで、普段は使わない客用の長机なども入れています。土間収納にすべきか迷ったんですが、住んでみて、ウチは部屋の中から取りに来るものの方が圧倒的に多いので、床つづきにして正解でした。
どう建てたかの差は大きい
ちゃんとした木の家を建てたかった。同じ「木の家」でも違いますよね。前に住んでいたのも木造だったけど、底冷えや屋根からの熱気はすごくて冷暖房も効かず、結露がビショビショでカビが生えてて……。やっぱり「木の家だから」というより「どんな木の家を建てたか」の差が歴然と出ますよ。今の家は断熱性能がしっかりしていてサンルームみたいなあたたかさ。冬に窓を開けることだってあるくらい!夏の夜は二時間で切れる冷房タイマーをセットして眠ると、朝までヒンヤリ保たれます。
▲吹き抜けから1階を見下ろす
しっかりと性能の確保できた外断熱の住まいでは、吹き抜けは温熱環境の心強い味方となる。暖気や涼風を家中に運んでくれる。▲2階ホール
みんなが通る階段上のスペースは、手すり下をシースルーの本棚に活用。
ラフな机を置いて、ちょっとした書斎に。▲子供部屋
1つの大きなフリースペースを、現在は真ん中で区切って2つの子供部屋に。
冬の明るさと対照的に春から夏には直射日光が入りません。
杉の床板は年中サラサラで冷たくない。
驚きなのが梅雨時の部屋干し!専用の乾燥機をつけたお風呂場で干すより乾きます。前の木造住宅では手放せなかった除湿機と、新居へ引っ越してサヨナラしました。
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▲リビング。冬の昼下がり。
奥の暖簾の向こうは和室。
冬はわざわざカーテンを開けてでかけることもあるほど、豊かな日当たりで家中がポカポカあたたまる。
対話がベストのカタチをつくる
この土地と暮らしは奇跡なんです。最初に「見つけた!」と見に来てもらった候補地は普通の分譲地だったんですよ。率直な意見を求めたら、中村さんが「太地らしくない」って。夫婦で「確かに」と。
私達、山登りが趣味なんです。山小屋が好きで、板倉風の家を建てたかった。今の土地は下見はしてたけど、境界が不明瞭で広大な印象でした。とてもじゃないけど持て余す……と眼中になかったんですが、「不動産屋さんに条件を確かめてみたら?」と現地から一緒に電話をかけてくれて。購入できるスケールだと判明!幸運が重なり、ここで建てることになりました。分譲地では、こんな生活はできてなかった。
当初、私達が描いたイメージは東向きの平屋でした。実家は玄関脇に客間があって、お客さんをリビングまでお通しせずに済んだので、それが良いな……と、入口近くに和室のあるプランを希望しました。
▲和室
プラン中の打ち合わせで、普段使いの快適さを重視する仕様に変更。フチなしの和紙畳みで隣り合うLDKともモダンな調和。▲造り付けのオリジナル洗面台
大容量の収納を備え、道具を広げられるスペースも充分。
コンセントは流しの右下の壁に取り付けた。一見目立たず、水がかりを自然に遮ることができる。これも打ち合わせの成果。
プロに頼む甲斐って、こういう事だと思うんです。
住んでみると東は人通りの多い道に面していて、人目が気になる。南向きにしたことで、はばかることなく海と庭だけを眺めて暮らせるようになりました。平屋ならこんなに広く庭をとれなかった。客間は玄関側だと東なんですが、中村さんの「お客さんは年に何回来られます?」が決め手でした。何年に一回も来んね……と。寝室としても使いたかったので、眠る部屋が玄関先で早朝から日に当たるって好ましくない。普段使いの過ごしやすさを第一優先に、和室は西へ移しました。吹き抜けは私達の発想にはなかったものです。でも明るさもぬくもりも風通しも、この吹き抜けあってのもの。効果が絶大です。
家族には「こうしたい」「ああしたい」という想いがあります。だけど発想の範囲は知識や経験に限定されてしまう。目的のためのベストを選択するために、専門家の言葉は大事かも。いろんな業者さんで家を見せてもらった時に違和感を感じた所を質問すると、何度も「建主さんのご意向で!」と笑顔の返答をいただきました。ご家族は悪い気はしないでしょうけど。「本当にそれで良かったの?」「それについて、プロとして思うところは?」と、モヤモヤして……。
ちゃんとコミュニケーションを重ねて、知識や技術に基づいた提案をもらえ、納得がいくまで考えられた。私達の家がこのカタチで建ったことに、とても満足を感じています。。
▽取材は一月の中頃の朝。リビングから広がる、緑のお庭越しの青空と海が爽快でした。陽だまりは、まるで薪ストーブをゆるやかに焚いたようなあたたかさでした。(中村祐子)
建物データ
所在 | 和歌山県東牟婁郡太地町 | 敷地面積 | 773㎡(234坪) |
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竣工 | 2016年冬 | 建築面積 | 105㎡(32坪) |
構造・規模 | 木造2階建 / 民家型構法 | 延床面積 | 154㎡(47坪) |
主要用途 | 専用住宅 | 床面積 | 1F:100㎡(30坪) 2F:54㎡(16坪) |