土塗り壁の家
- 住宅

住まい手インタビュー
あるべき我が家を求めて十数年
最初はモダンな建築に憧れていたから、写真集片手に、オリンピック競技場の選考をされるような建築家や、メジャーな先生方を巡るところからスタートしました。コンクリートの打ちっ放しや四角い家が好みだったんです。たくさん行ってみると、デザインが洗練されていても自分はここに長くは住めないと痛感するようになった。裕福なら、年に数日だけ滞在する別荘とかには良いかもしれないですが……自宅としてはどうだろうと。
入母屋瓦屋根みたいな木造も嫌いではなかったので、手を広げてみました。だけどあまりに純和風だと、私たちの自宅としては仰々しい……。そうなってくると、とにかくいろいろ調べまくるんですよね……!他府県へ本格石場建ての家を訪ねたりもしましたが、あまりにストイックに伝統工法へ回帰しすぎると、日々の暑さや寒さが心配でした。
いっそのこと費用を大胆に圧縮して「キャンピングカーは?」という案も飛び出したり。キャンピングカーも随分、見てまわりました。でも納得いくセッティングをしていくと、すぐ一千万円くらいにまでなってきます。だったら、家の方がいいかなぁと。
▲リビングの吹抜
リビングには吹抜を設けて、部屋の奥まで光を取り入れる。▲造作のキッチン
住キッチンは造作とし、引き出しの数や寸法は住まい手の使いやすいようにデザイン。天板はステンレスを採用した。
本格的な竹小舞の土塗り壁
今も変わらずモダンデザイン派な友人達は「快適さへ日和ったな」と冗談半分に言うんですが、いやもう。断然こっち! 軌道修正して正解でした。少しだけ居て気持ちいい……というのは割とありますが、ずっと居て気持ちいい空間は稀です。
▲土壁の下地となる竹小舞
土壁下地の竹小舞は竹をシュロの縄で結わえてつくる。近頃では竹小舞の材料となる竹の確保が難しくなってきている。▲土壁の表塗り後の様子
竹小舞の室内側から表塗りを行う。▲返し塗り後の土壁
表塗りの後、外部から返し塗りを行う。
この後、十分に乾燥させてから仕上塗を行う。
希望を明確に。本物を選ぶ。
考える時間が充分にとれたので、欲しいものが明確になっていました。常識などに囚われず、求めるものへストレートに手を伸ばせた気がします。▲寝室の様子
2階には夫婦の寝室。 天井から垂らした布は住まい手のアレンジ。▲リビング脇の勉強スペース
リビングの脇に造作の桧天板を設置して勉強スペースとした。
▲玄関
玄関には造作の下駄箱を設置した。
のれんの奥は玄関収納。▲洗面スペース
住まい手のご希望で洗面は横に2セットが並ぶ形式とした。
正面のガラスの裏はコップや歯ブラシの収納スペースとして活用。▲浴室
浴槽は桧で、壁の黒い石は玄昌石。
▲建物外観
外壁は焼杉板を縦に目板張り。▲寝室
ポーチの土間は金錆砂利洗い出し仕上。
段鼻には錆御影石を荒く削り出した材を使用した。
伝統を継ぐ職人達からのエール
身近には、昔ながらの大工さんもいらっしゃいます。けれど息子さんの代では、高度な技術を身につけ独り立ちするまでに時間のかかる職人仕事の時間感覚や一つ一つの手仕事が、即時収益・均一性を求める時代のニーズと合わなくなってきているそうです。それでメーカーの下請けもしているそうなんですが。奥さまが来てくださった時、知りつつも頼まなかった私たちの引け目を吹き飛ばすように「ええ家や!業者の側も建て主も、今の時代にこういう家を、よう建ててくれた!」と言ってくれました。▲上棟時の様子
柱は桧、梁は杉で共に龍神材を使用した。
上棟時には後に式が控えているため、時間的な制約が厳しい。 いかに段取りよく進めるか、、、職人の手際が試される。▲継手の様子
手刻みを採用したので、継手は伝統的な継手となった。
写真の継手は金輪継ぎ。
本職の方々が認めてくれるような本物の住まいを、十数年越しの家づくりの実りとして得られたことを嬉しく思っています。
(インタビュアー:中村祐子)
建物データ
所在 | 和歌山県和歌山市 | 敷地面積 | 250㎡(70坪) |
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竣工 | 平成25年9月 | 建築面積 | 106㎡(32坪) |
構造・規模 | 木造2階建 / 民家型構法 | 延床面積 | 138㎡(42坪) |
主要用途 | 専用住宅 | 床面積 | 1階/93㎡(28坪) 2階/ 45㎡(14坪) |