木の家の建築家中村伸吾の建築設計事務所では和歌山の紀州材や自然素材を活かし無垢の材料で木造住宅を造っています。外断熱通気工法・土塗り壁・杉厚板の家などおまかせください。

古民家の改修 / 那智勝浦●平成24年12月 ●和歌山県東牟婁郡那智勝浦町

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外観

■建物解説

 築100年を超える古民家の改修に取り組む。造りはとてもしっかりしていて、いくつかの特徴がある。伝統的な田の字のグリッドで出来ているが、よく見かけるものより2ブロックほど大きく、当時の民家としては少し大きめの家だろうと思う。寒くて大変だったかもしれないが、保存状況はとても良い。構造材などの材料は太く・大きく・厚く、そして角材に整形されている。通常、民家では「もったいない精神」を遺憾なく発揮し、材の丸みはそのまま使う。細い材料で大きな力を発揮するにはそれが合理的なのだが、ここの木材は多くが角材に整形されている。そして、目通りがとても良い。板目でなく柾目に木取りされているのだ。細い材料を使ったのでは柾目の材料はとれない。それに、角材に整形することも難しいだろう。ということは、太く見事な材料を用意して、その中から厳選して必要な材料を切りだしたということだ。屋根の野地板が板1枚ではなくその上にていねいに檜皮を重ねてから土をのせ瓦を葺いていることや、縁側の垂木が化粧と野垂木で二重組みされていること、ケヤキなどの貴重な木材をふんだんに使用していることなどから総合して、新築時にかなりの建築費を費やして、町屋の大工ではなく、お寺やお宮さんなどの普請を手がける宮大工などの手で建てられたのではないか。あるいは、それほどの腕を持つ大工によって建てられたのではないかと推察する。再生・改修の仕事は、もう価値がなくなったと思われているものに、大いなる価値を見いだすことだ。この建物の価値を見抜き、大枚をはたいてでも、今の時代の要求に耐える建物として再生・改修し、「次の世代に引き継ごう」という建て主のお考えに大いに敬服する。

外観
室内 室内
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■住まい手インタビュー

100年以上、受け継いできた想い

 住まいをなんとかしようと動きだした直接のきっかけは、平成23年の台風で、床上およそ60センチまで浸水してしまったことでした。この家はここに建って100年以上になります。元はもう少し山奥にあったものなので、正確には、古い家を移築してきて、今の場所で暮らし始めたのがここ100年ほどのことです。当時は大きな柱・梁も全て、人が大八車に乗せてひくしかなかった。家一軒分も昔の道なき山道を。そうまでして愛着のある住まいをここへ移築させた先祖の気持ちを引き継ぎたいという思いがありました。「うちには良い木が使われているんだ」と聞いて育ちましたしね。今なら、色々なことが機械でやってしまえますが、昔は一から十まで手作業、力仕事。柱一本作るのも大変だったでしょう。ものに対する感覚は、現在とは随分違ったんだと思います。だけど老朽化や、水に浸かったことなどで、もう寿命だというなら仕方ありません。そこで、中村さんに相談にいきました。

他に代えがたいもの

 家内の実家が田辺なので、中村設計さんのことは知っていました。ある時、中村さん(所長)のブログを訪ねてみたら、甘党で車が好き。というところからはじまり、なんと気の合うこと!(笑)木の家に対する想いにも共感し、この人に頼みたいなぁ…と思うようになりました。うちへ来てもらうと「これはいいお住まいですよ!」と、中村さんは改修をすすめてくれました。費用は結構かかるということでしたが、家族はみんなここで育ち暮らしてきたんです。その歴史というか、時間が育てた住まいの風格というか…には、他に代えがたい値打ちがあります。壊してしまえば、ただの廃棄物。せっかくこれからも生かしていける家なんだから!と踏み切りました。改修に取りかかり天井をあけると、神社でもらったような木札がいくつか出てきました。内一つには、百数十年も前の年号が書かれてあった。建ててから、直し直し、何度も大事に家に手を入れてきた形跡です。今も、木札は再び棟木に飾ってあります。

飾り お守り 縁石

改修を終えて

 改修は、して良かったです!気持ち良く過ごせるようになったし、ご近所さんには「料亭でもはじめるの?」なんて言われるくらいに見た目があか抜けました。夜に木製雨戸の幕板からもれ零れる室内の明かりに風情があり、家族のお気に入りです。いかにも今風な味気ないリフォームはしたくなかった。ただ、水回りだけは新しいものを存分に採り入れて、バリアフリーにしてもらいました。誰しも歳はとってゆくものです。車イスに乗ったまま利用しやすい広さとフラットな床になり、使い勝手が良くなりました。こうした実用の部分は、今風で便利だと助かります。以前はお風呂とトイレが別棟にあって、寒い冬でも夜中でも一度家を出て場所を移動していたんです。一番遠い自室から毎日通っている母のことは、ずっと気になっていました。今回の改修でお風呂・洗面所・トイレが、同じ屋根の下、キッチン近くにまとまり、長い動線が随分短縮されて、とても満足しています。

外観

ビフォーアフター1

室内

ビフォーアフター2

開口部

ビフォーアフター3

改修後、入居してみて

 過ごし心地は、もう…!はるかに良いです!なにせ昔の家というのは、すきま風がすごいし。床下から順番に、単に板と畳だけがあって、その上に人が生活していたんだから!今回はきっちり断熱の備えもしてもらい、性能は歴然と向上しました。この冬、外が氷点下の日も、何もしなくとも室内は13度ありましたよ。薪ストーブは緩やかなぬくもりが、家の隅々まで行き渡って…とても柔らかい暖かさでした。身体が非常に楽ですね。前は家中が暗く、昼間でも電気をつけないと生活できないのは困りものでした。開放的な明るい家になり、今では日が暮れるまで照明は必要ありません。キッチン上の天窓も、光が降り注いですごくいい。日当たりと断熱性能が良くなった相乗効果か、冬は日光が差し込むと暖房なしでもぽかぽかとぬくもります。エアコンはもともと使わない性分で、改修後も夏は窓を開け放って過ごしています。周りに田んぼや緑も豊富だから、朝夕は充分に涼しいしね。そういえば、家族の過ごし方が随分変わったなぁ。前は区切られた個室・個室で、特に冬は石油ヒーターを入れた一部屋に集まって過ごし、そこから用事でそれぞれの部屋へ向かうという感じだった。

キッチン
外観
薪ストーブ

今と昔が重なり合う

 襖と障子は風合いが好きで、残したかった。襖は浸水で傷んでしまって使えず、障子5枚が、手を入れてもらって現在も現役続投中です。玄関の踏み石も、昔からあったもの。和室の欄間や、そこここに改修前の馴染み深い品が生かされています。野地板(屋根下地)には、5・6年前、台風でうちの山の木が沢山倒れ、それを製材して2年ほど乾燥させておいたものを、丁度良く使うことができました。60年ほどの樹齢で、私が生まれた時におじいさんが植えておいてくれた木でした。代々、孫のための木を植えて順番に引き継いでいく…という、昔ながらの山のやり方ですね。所縁あるものを生かすことができて嬉しく思います。東側の一画にある梁は、黒光りしています。このツヤは何も塗ってません。昔この辺りには、へっつい(カマド)があったんです。炊事の煙や油で燻されたんでしょうか…隠れていた天井裏の柱・梁が室内へ出てきて、磨いてみると驚くほどピカピカになりました。こんなものが隠れていたとは。今回の改修では、新しくした所も多かったけれど、家が随分と昔の姿を取り戻した部分もありました。面影や家族の思い出を取り込みつつ、これからも住み継いでいける住まいになったと思います。

遠景

(インタビュアー:中村祐子)

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■建物データ

●所在     :和歌山県東牟婁郡那智勝浦町

●竣工     :平成24年12月

●構造・規模  :木造平屋建

●主要用途   :専用住宅

●延床面積   :105u(31坪)