コラムcolumn

こだわってこその我が家。

  • 夢をカタチにする力 -その59
  • 上秋津の家 (平成29年春竣工)
こだわってこその我が家。
 住まい手には、実現したい具体的な要求がありました。木の特性を良く生かした日本家であること、わけても土塗り壁と風通しは譲れない要素であること。簡単に思えるそれらの要求は、たくさんの施工例を尋ねてもなかなかに実現が難しく思えたようです。ここなら・・・と思って取り組まれた施工店との家づくりも上手くいかず、私のところにお見えになった時には少なからず困り顔をされていました。
 竹の小舞を編み込んだ土塗り壁は蓄熱・調湿の性能に優れ、夏に涼しく冬暖かい・・・湿気の多い当地方でその真価を発揮する古来の工法です。最近の家づくりの現場から急速に無くなってしまったのは、家づくりの主導権が住まい手から、営利優先の業者(企業)に奪われてしまった弊害でもあるでしょう。いまや施工できる職人も激減し、専用の道具や材料も経験のある者で無いと簡単にはそろいません。
 土塗り壁を採用する時には注意しなければならないことがあります。それは断熱・気密の性能の不足です。万能では無い土塗り壁の弱点はしっかりとした外断熱の追加で補っています。

 たとえ世間から無くなりかけている工法でも、自分たちの暮らしに必要だと感じた時には断固として諦めない・・・そんな住まい手の姿勢が完成させた住まいです。 
 必要なものを見つめ直し選択し、 自分たちらしい住まいを造る・・・そんな当たり前のことの大切さをつくづくと感じます。誰に評価を求めることもありません・・・家族にとって本当に必要だと思うものを追求すること。こだわってこその我が家です。

住まい手からの便り・・・平成28年冬。

  • 夢をカタチにする力 -その58
  • 桜陰緑風の家 (平成28年冬竣工)
住まい手からの便り・・・平成28年冬。
 前略・・・昨晩布団だけ持ち込んで、初めて家で寝たのですが、嬉しすぎてあちこち部屋中を眺めながら色々話をしていたら夜中の1時でした。 朝は7時前から朝日が入って、気持ちよく目が覚めました。 暖房器具は無い状態でしたが、夜中も朝も全く寒くなかったです。 南側から日が入るので、すぐに部屋が暖かくなってぽかぽかして快適でした。 朝ご飯を済ませてから、前に住んでいた家に荷物の片づけに戻りましたが、10時前でもまだ日が当たらず、暗くて寒くてすぐに照明とストーブをつけ、こんなにちがうんだなと驚きました。・・・中略・・・昨年の10月に初めて田辺の事務所にお邪魔してから、1年あまりでこんな立派な家にすむことができていることが夢見たいです。 本当にお世話になりました。ありがとうございました。 設計士さんと話をするなんて初めてだったのでドキドキして、とても緊張して田辺の事務所にお邪魔しました。 でも中村さんがとても気さくで話しやすくて、ほっとしたのを覚えています。・・・中略・・・おかげで、すばらしい土地に巡り合え、こんな素敵な家を設計してもらって本当に感謝しています。 ずっとあこがれていた本物の木の家に住むことができて本当に嬉しいです。
  住み始めて1ヶ月・・・朝起きても寒くなく、障子を開けるとちょうど朝焼けの時間で、日の出が見えます。その美しさに見とれてしばらく眺めています。着替えて階段を下りていくともう朝日が1階の部屋いっぱいに差し込み、柱や和紙張りの壁がピンク色に染まって本当にきれいです。食卓について、みんな庭の方を眺めて窓から入る静かな朝の光を楽しみながら朝ご飯を食べ、気持ちよく出かけることができます。仕事が終わって家に帰るのが嬉しくて、早く帰りたくてたまりません。主人は、仕事せずに一日中家に居れたらいいのにな、なんて言ってます。

 最近とても寒く、雪がちらつく日もありますが夕方帰宅してもそれほど寒くないです。薪ストーブは毎日炊いています。下の子がすぐにつけ方を覚えて毎日火をつけています。とても暖かくて寝るときも湯たんぽをしなくなりました。ピザを焼いたり、おでんを炊いたり、楽しんでいます。・・・後略

たのしい四季がめぐる家。

  • 夢をカタチにする力 -その57
  • 東窓の眺望を楽しむ家 (平成27年春竣工)
たのしい四季がめぐる家。
 敷地は貴志川に沿う高台。前面道路は西側にあり、南北は隣地に接しています。しかし東側は畑地に接し、その向こうには雄大な山並みが拡がっています。この借景をいかして、移りゆく山の四季を楽しみながら自然と共にのびのびと暮らせるような住まいを目指しました。
 1階は大きなワンルームのような使い勝手。中心となる居間・食堂には薪ストーブが据わり、キッチンはぐるぐると回れるアイランド使いの対面タイプ、階段もこのスペースにあり、東側の窓は当然掃き出しの大開口でデッキを介して庭につながっています。さらに、薪ストーブの暖気を住まい全体に循環させるための工夫を通じて2階ともつながります。隣のタタミ間は客間も兼ねますが、それよりも普段使いを重視した設え。子ども部屋は丸太梁が丸見えの大部屋、最初から子供の数に合わせて・・・なんて区切りません。まずは大空間で充分に遊んで、個室は必要に応じて造っていく計画です。
 深い軒の出と大きな開口部が風の通り道を確保し、季節によって高度の違う太陽光を制御します。床・外壁はいずれも外断熱・通気工法。結露の心配が少なく断熱・気密の性能も優れています。住まいの骨格をなす構造材は龍神材。木組みの美しさを楽しみながら、湿気を調整する木の特性が良くいきるようにあらわしで使っています。壁は珪藻土と杉板で仕上げました。蓄熱・調湿の性能が高い材料で出来上がった室内は機械依存が少なくエコロジーでエコノミーな上に快適です。

 竣工から1年半の時が過ぎ、庭の芝生もすっかりそろいました。室内とデッキと庭を一つにして、住まい全体が家族の良い遊び場です。大きく開いた東の窓からいつも新鮮な朝日が差し込み、爽快な景色の中を四季が巡ります。陽だまりと風と木の暖かみを感じる暮らしを実現する住まいです。

自然と共に生きる。

  • 夢をカタチにする力 -その56
  • 里山の家 (平成27年春竣工)
自然と共に生きる。
 木の家工房Mo-kuのイベントに何回かお見えになった住まい手がいよいよ家づくりの時期を迎えました。まずは土探し・・・ところがなかなか納得いただける土地が見つかりません。よくよく伺ってみると、奥様は東北出身、お隣までクルマで数分という自然豊かな環境で育ってこられたのだとのこと。なるほどそれなら分譲地に住宅が建ち並ぶ街中の状況には馴染みが良くないかもしれません。そこで・・・とご紹介したのが、和歌山市内にあっても里山がすぐそこまで迫る地区の一角。この土地と巡り会った時の奥様の目の輝きが忘れられません。
 計画はこの里山に向かって充分解放できる大開口を中心に考えました。ここで中と外を区切っているのは3枚の巾1.8メートル・高さ2.2メートルのすっかり引き込める木製建具です。食堂・居間や畳間と共に、台所に立つ奥様の目線までがこの大開口を通って里山に向かいます。2階の寝室や個室群からこの景色が楽しめるのはもちろん、お風呂場からも同じ景色が見えるようになっています。
 構造材は龍神産の杉・桧、他の羽柄・造作材・内装材も同じように国産の無垢材です。床・壁・屋根の全てが外断熱・通気工法でスッポリと囲われた建物の室内は木・土・紙などの自然素材で造られ、高断熱・高気密の陰でともすれば忘れられがちな調湿・蓄熱の性能をしっかりと発揮し、機械依存の少ない清々しい空間を提供してくれます。

 自然素材で造る家は特殊なものではありません。むしろここ30年あまりで造られてきた新建材や石油製品だらけの家が特殊だと思うのです。軒高は高すぎず、軒の出をしっかり出して太陽光を制御し、効果的な開口部を設けて風の通り道を設計する。室内には木や土や紙などの自然素材を使い調湿・蓄熱に心を配る・・・地域と共に育ってきた建築文化を大切にすることで私たちの生活はもっと快適になるでしょう。
 自然豊かなこの地で、子ども達は奥様が経験された様な自然と共にある暮らしをこれから経験することでしょう。ご家族の健やかな暮らしにお役に立てたことに感謝します。

住み継ぐ意志。

  • 夢をカタチにする力 -その55
  • 丸太梁の家 (平成27年秋竣工)
住み継ぐ意志。
 新しく家を建つか既存の家を改装するか迷っている・・・そうお声掛けいただいて現場を尋ねたのは一昨年の秋でした。築後40年ほど、外観は屋根も含めて問題はない様子・・・世代を越えて住み継いでこそしっかりと造られたものの価値は発揮される。そうすることで住まい手の記憶はつながり、社会資産としての住まいも蓄積が出来る・・・日頃のそんな思いから、迷うことなく既存住まいの改装をお勧めしました。
 天井裏に入ってみても、土が抜けている様子はありません。印象深かったのは見事に掛けられた丸太梁です。これを利用しない手はない。新築で得られる良いこともたくさんありますが、改装でないと出せない味もあるのです。今は隠れている立派な丸太梁の木組みを今度は見せるようにデザインして、建物タイトルを「丸太梁の家」とすることにしました
 既存の屋根瓦は丸瓦を使った日本瓦の本葺き。それをそのまま利用して、増築される下屋部分を金属板葺きとしてこれに差し込むことで、全体の高さを抑え建物に落ち着きを与えました。外壁は全面火山灰を利用した土塗り壁、これは室内床の杉厚板と共に住まい手のご希望です。ドッシリと地に足付けた外観の中に、丸太梁で構成された変化に富んだ室内を内包しています。断熱・気密の性能不足は古い家の弱点です。そこで、屋根・壁・床は外断熱の通気工法で現在の住まい手に必要なだけの断熱・気密性能を確保しました。室内仕上げは珪藻土と無垢の木材ですから調湿の性能も優れています。

 住まいの改修や再生は、一見価値が無くなった・・・と思われているものの中に、大いなる価値を見いだす仕事です。この家の場合は見事に掛けられた丸太梁がその象徴。裏方から表に引っ張り出された丸太梁は、住まいを特徴付ける役目をしっかりと果たし、新築では出せない味を醸し出しています。若い住まい手の住み継ぐ意志によって新しく命を吹き込まれたこの住まいが、世代を超えて住まい手の期待にこたえてくれることを願っています。

場の持つ力。

  • 夢をカタチにする力 -その54
  • 水平線を望む家 (平成27年春竣工)
場の持つ力。
 家はそこに暮らす家族の人数や状況、環境条件・経済的な制約などに左右されながら、それら諸々の条件を統合する形で成立します。この住まいの場合に特に大きかった要素は敷地のありようです。太平洋が一望出来る土地の真ん中にはご主人が子どもの頃にご家族で植えた思い出深いフェニックス・・・この木と水平線の見える絶景の眺望をいかして、非日常が味わえる別荘として機能する住宅が欲しい・・・これが住まい手の家づくりのコンセプトです。
 別荘としても使いたいということから、多人数が集まる居間・食堂などのパブリックな空間と寝室をはじめとするプライベートな空間を玄関と廊下で明確に分離し、しかもそれぞれから水平線が望めるようにと配慮しました。主な開口部は木製の引き込み戸で造り、フルオープンで気持ち良く周りの環境に開かれるようにしています。特に居間・食堂では4間の開口が海側に大きく解放され爽快感を際立たせます。大空間を支える梁組には大断面の集成材は使用せず、地元産の杉・桧の無垢材を立体的に組み合わせることで、単調を逃れリズミカルで木組みの面白味を体験出来る空間を目指しました。断熱性能の高い木製建具の採用と、屋根・壁・床を外断熱の通気工法でスッポリと包み込んだおかげで温熱環境的にも優秀です。

 敷地と建物は別々に存在することが出来ません。ですから、敷地状況に関係なくどこに建っていても成立するような建物は、自らの持つ可能性を充分に発揮出来ているとは言えないでしょう。敷地の存在する場の持つ意味を十分に解析・理解し、その場との融合・共存を図り、お互いのポテンシャルを最大限に発揮させようとすることで、建物だけでは創造出来ない存在価値や理由を表現することが出来るのです。
 大海原に抱かれるようにあるこの住宅が、住まい手や訪れる方一人一人の大いなる癒しの場となることを願っています。

改装工事(リフォーム)は目的を持って。

  • 夢をカタチにする力 -その53
  • 金谷の家の改装 (平成27年初夏竣工)
改装工事(リフォーム)は目的を持って。
 住まいづくりにはコンセプトが大切。新築の時には良く分かっていることを、改装だからといっておろそかにしてはいけません。むしろ、改装だからこそしっかりと目的意識を持っていないと、対象のヶ所は際限なく拡がり、思ってもいなかった工事費が必要になったりすることもあるのです。
 子育ても一息つき、これからゆっくりと二人の時間を楽しみたい・・・と思い立ったご夫婦は改装を決意されました。大事にしたかったのは厨房機器の新調にともなう台所の使い勝手の変更、それに温熱環境の強化です。
 これまで機能重視で台所と食堂・居間は一部屋でしたが、新しいキッチンセットには少し独立性を持たせて、よりくつろげる食堂・居間を目指しました。隔壁には造り付けの食器棚とカウンターを用意して収納能力も増やしています。床・壁・天井には充分な量の断熱材を入れて暑さ・寒さ対策も万全です。壁・天井は和紙貼り仕上げ、床板は無垢の赤松のエンコウ板を張り込んで、フローリングでは止めにくい足元の底冷えを止めました。
 新婚当時、子育て時代、悠々自適で人生を楽しむ時期・・・それぞれに住まいのニーズは違ってきます。改装に対応出来るしっかりとした骨組みを用意して、少しの手間を掛けながらそれぞれの世代に適した暮らしを楽しみたいものです。

イメージする力。

  • 夢をカタチにする力 -その52
  • 真ん中に階段のある家 (平成26年秋竣工)
イメージする力。
 家を建てよう・・・と思い立っても、具体的なことを統合して一つにまとめ、現実のものにしていくのは大変な作業です。敷地の形や状況、家族の思い、将来のこと、予算のこと・・・考えなければならないことは山ほどあります。本やパンフレットを片手に方眼紙に向かって、間取りを書いてみよう・・・なんてことになると、どんどんと迷宮に入り込むばかり。そんな時には、新しい住まいで始まる楽しい生活をイメージすることからはじめましょう。
 この家の住まい手が欲しかったのは「家中が光であふれ、どこにいても家族の気配が感じられる家」・・・ですから、空間は間仕切り無く大きく、庭と室内は全面的に解放できる引き込み戸でつなげるのが良いでしょう。炊事する奥様から見渡せるのは、陽だまりの中で趣味の釣り道具の世話をするご主人と、中と外・上と下の空間を一つにして走り回りながら遊ぶ子ども達の姿。楽しい家族が一体になって時間が過ぎていく・・・そんなイメージです。
 そこで問題になったのが階段の位置。空間に一体感を持たせるのであれば、吹き抜けと共に家の真ん中あたりにあるのが良い。でも、そうなると空間が分断されて家族に一体感は生まれにくい・・・そんなジレンマを解決してくれたのが真ん中にあっても存在を主張しないシースルーの階段です。これで、ご主人は釣り竿を思う存分伸ばせ、奥様からは子ども達の姿もよく見えます。階段を上り下りする姿さえ丸見えのこのプランなら、家族が今どこに居るのか想像するのも容易です。
 設計の段階では目に見え体感できる空間はどこにもありません。しかし、ひとつひとつ決断していかなければ家づくりを進めることは出来ません。そんなときに住まい手に決定する力を与えてくれるのは、これから始まるであろう生活を想像してみる能力です。さあ、イメージする力を存分に発揮してお気に入りの空間を手に入れましょう。

住まいを造る。

  • 夢をカタチにする力 -その51
  • ありのままの家 (平成26年春竣工)
住まいを造る。
 ご主人は水産関係の海の仕事、奥様は医療関係の仕事、子どもさんは三人・・・みんなとっても忙しい、そして、とっても仲が良い。打ち合わせはいつもご家族一緒、ご両親と住まいの話をしている傍らで、子ども達はお姉ちゃんをリーダーにしてお絵かき。仕事柄事務所には色鉛筆や大判の紙はたくさんあります、打ち合わせが終わる頃には絵の中にとうとう私までもが登場していました。自然に包まれた、家族が一つになれる住まいが欲しい・・・ご希望は私がご家族を見て感じるものと一致していました。
 ところが、敷地がなかなか見つかりません。住宅団地の中では家族の思いは達成出来ません。かといって街を大きく離れてしまうと日常生活が大変になります。根気の末に見つけたのが今回の土地です。東西に長いこの土地は北側に宅地としては使えない斜面も含みますが、そこの高低差と緑が緩衝帯となって暮らしに余裕を与えてくれそうです。
 プランニングの特徴は家全体が大きなワンルームのような使い勝手に出来ていること。中心となる居間・食堂には薪ストーブが据わり、キッチンはぐるぐると回れるアイランド使いの対面タイプ。階段はもとより、洗面コーナーまでがこのスペースにあります。隣のタタミ間は客間も兼ねますが、それよりも普段使いを重視した設え、薪ストーブの暖気を住まい全体に循環させるためにもうけた吹き抜けを通じて2階ともつながっています。子ども部屋はロフトを持つ大部屋、最初から三つに・・・なんて区切りません。まずは大空間で充分に遊んで、個室は必要に応じて造っていく計画です。

 春、私が伺った折にはまだ段ボール箱が室内に山のように積まれていました。これからみんなで徐々に方付けていくのでしょう。建物が竣工しただけでは「住まい」は出来ません。これからご家族の生活が入り、人の息づかいが糧となってこの建物は「住まい」となっていくのです。とっても忙しい、そしてとっても仲が良いこのご家族の住まいが、今後どのように成長していくのか楽しみです。

思いやる心を形にしたい。

  • 夢をカタチにする力 -その50
  • 趣味室のある家 (平成26年春竣工)
思いやる心を形にしたい。
 折角の家づくりなのですから思い切り個性的に・・・他の誰かは喜んでくれなくて良い、ちょっと他所と違っていても、住まい手の思いが素直に現れている家が満足度の高い家なのです。さて、そうするには・・・少なくても、どういう住まい方をするのか、何が必要で何が必要でないのか・・・自分たちの気持ちが良く分かっていなければなりません。しかし、いざとなってみると、諸々の制約の中で自分の希望や思いをしっかりと描くことは結構難しいことだと気付くでしょう。ましてや家族の総意を組み上げるとなると至難の業。例え、ご夫婦二人だけとなっても簡単にはいきません。互いがご自分の意見を主張してなかなかまとまらない・・・なんてことは日常茶飯で起こりがちですが、この家の住まい手は違っていました。
 ご主人の第一の希望は、キッチンと水廻りがきれいにまとまり、奥様が気持ち良く動ける合理的な動線計画の住まいを実現すること。奥様の第一の希望は、ご主人の趣味であるアウトドアーの道具がひとまとまりに置けて、その中でゆっくりと時間を過ごせる趣味の部屋があること・・・互いの第一希望はそれぞれに自分のことではなく、パートナーを最も喜ばせるためのものだったのです。
 この住まいには玄関や勝手口とは別に、外部から直接アプローチ出来る部屋が有ります。キャンプ道具や自転車などが所狭しと並ぶ趣味の部屋です。充分に・・・とはいきませんでしたが、使い勝手の良い、ご主人お気に入りの部屋です。台所は行き止まりのない空間に対面式のキッチンが据わっています。背面に洗面・浴室などの水廻りがつながり、すぐ横には食品庫を兼ねた家事室があります。
互いを思いやる気持ちを形にした・・・趣味室のある家はそんな住まいです。

住まい心地は五感で確かめる。

  • 夢をカタチにする力 -その49
  • 上三毛の家 (平成26年春竣工)
住まい心地は五感で確かめる。
 家づくりの難しいところは、住まい心地が目に見える形で示されていないことです。例えば、成績表のようなものがあって、点数が高い方が快適・・・ということならば判断は簡単ですが、国の性能表示制度(住まい性能の点数化)などを持ってしても本当に快適かどうかを見極めるのは至難の業です。あるクライアントは、どう見ても木の家に見えたので見学会に行ってきたのですが、湿気でムッとした室内に幻滅し、その工務店で建てるのをやめました・・・と言って私のところを訪ねてくれました。見た目に同じような家でも、しっかりとした考え方の元に木の家としての対策がなされていなければ、木の家独特の清々しい住まい心地は望むべくもありません。
 この家の住まい手も他社のモデルハウスをご覧になった後に木の家工房Mo-kuを訪ねてこられました。いくつか家を見たけれど気に入ったものがない・・・とおっしゃる奥さん・・・小一時間の談笑の後でご主人が、あんなこと言ってましたけど、こんなに長く居たのは初めてです、結構気に入っているんだと思います・・・と言い残してお帰りになりました。そして後日、正式な家づくりがスタートしたのです。
 洋服などを買う時には着心地というものを大事にします。住まいも住まい心地で語られるべきですが、洋服のようには試せないのがつらいところ・・・そんなときには自分の感性を信じていくつかの住まいを回ってみましょう。その気になれば、あなたの五感がパンフレットにはない住まいの善し悪しをきっとあなたに教えてくれることでしょう。
 上三毛の家は住まい手がご自身の五感を信じて見つけ出してくださった住まいです。断熱・気密と共に調湿・蓄熱に注意を払い、地場産の杉・桧をはじめとする、土・石・紙などの自然素材で造り上げています。設計者として精一杯の思いを込めたこの住まいが、いつまでも住まい手ご家族とともに健やかでいてくれることを願っています。

住まいの形は、家族の形。

  • 夢をカタチにする力 -その48
  • 屋根下空間を楽しむ家 (平成26年春竣工)
住まいの形は、家族の形。
 最初の出会いは事務所主催の完成見学会でした。ご主人の質問はどれも具体的で、とても熱心に見学されていたのを覚えています。打ち合わせはいつもご家族一緒。各部の詳細にはきっちりとしたご希望をお持ちでしたが、全体計画はおおらかに私の提案を受け入れてくださいました。
 理論派で合理的なご主人、人に優しく細やかなお心遣いの奥様、年の割にはしっかりとしたボク・・・そんなご家族に私が提案したのは、住まいのどこにいてもご家族三人の存在が確認できるお家。建物全体の高さを抑え、2階もまるで屋根裏のように階下の部屋とひとつながり、住まい全体が一つになって楽しめる家です。
 深い軒の出と大きな開口部が風の通り道を確保し、季節によって高度の違う太陽光を制御します。床・外壁・屋根はいずれも外断熱・通気工法。結露の心配が少なく断熱・気密の性能も優れています。大空間の暖房は深夜電力型の蓄熱暖房機、室内の空気を汚すことなく穏やかな暖かみを提供します。住まいの骨格をなす構造材は龍神材、床板にはご主人こだわりの杉の厚板を張り込みました。壁は珪藻土と杉板で仕上げています。蓄熱・調湿の性能が高い材料で出来上がった室内は機械依存が少なくエコロジーでエコノミーな上に快適です。
 ひとまとまりの空間の中で笑い声が和やかに響く・・・この住まいが、そんなご家族と共にゆっくりと重ねる時間を大事に見守りたいものです。

子どものびのび、木の園舎。

  • 夢をカタチにする力 -その47
  • かぜのこ保育園 (平成25年冬竣工)
子どものびのび、木の園舎。
 保育所や幼稚園の建物というと、「子どもの国」の様なものをイメージするのか、おとぎ話に出てくるようなものが多く見られます。子ども達の情緒の育成には大いに気を配るべきですが、園舎までテーマパーク風である必要はありません。
 まず、安全で安心な自然素材で造ること、のびのびと過ごせるフレキシブルに使える大空間があること、園児達の情緒を育てる変化に富んだ空間体験が出来る建物であること、そして省エネや環境貢献を意識しながら経済的に造ること・・・そのために木造園舎は大きな力になります。
 幸いにも敷地の近くにはまだ緑が残っていました。子ども達に自然の大切さを教え、人間も自然の一部なのだということを、体験を通じて伝えるチャンスがそこにあるのです。紀州材を中心とする自然素材で造り上げた木の園舎はこの環境と共存し、地域に親しまれながら森の緑と一体になってより深い学びを生むでしょう。
 竣工式では子ども達が元気いっぱいにリズム運動を披露してくれました。足触りの良い唐松の床板の上を所狭しと飛び跳ねる子ども達の様子は、体全体で新しい園舎で過ごすことの喜びと気持ちよさを表現しているようです。代々の子ども達の歴史を床や壁に残しながら、いつまでもしっかりと、そしてやさしくこの子達を包んでいてくれるよう願っています。

時は流れる・・・そしてつながる。

  • 夢をカタチにする力 -その46
  • おじいちゃんの植えた木で建つ家 (平成26年春竣工)
時は流れる・・・そしてつながる。
 木は、建築用材として使うには五〇年生以上の材料が必要です。つまり、私たちが木の家を建つには、ちょうどおじいちゃん世代の人が植えて、お父さん世代の人が育てた木を使うわけです。と言っても、通常そんなことを意識できることはありません。ところが、この家の住まい手は自分のおじいちゃんが植えて、お父さんが育てた木で家を建つ夢を実現できたのです。
 大きな玄関土間を持つ平屋・・・住まい手の原体験の中にある住まいの形を新しい家で具体化したい・・・というご希望でした。
 桧の大黒柱が大きな屋根の骨格をしっかりと支え、胴差し(大梁)は松の丸太、梁類は杉、柱類は桧、床は杉の厚板です。敷居・鴨居などの造作材から押入の中に張った杉板に至るまで、すべての木材がおじいちゃんの山から来ました。
 大きな土間を持ち、開放的な住まいでは冷房よりもむしろ暖房に気を使います。そこで役に立つのが大カロリーの薪ストーブ、これ一台で家中すべての暖房をまかないますが、そのために効率の良い外断熱で床・壁・屋根面をすっぽりと覆い、暖かい風が住まいの中を巡るようにしっかりと計画しています。 
 私たちがあまり意識しなくても、時間は当たり前に連続して過去から未来へとつながっています。そのことが目に見える形で自覚でき、自らのアイデンティティーに思い至る事が出来ることは幸せなことだと言えるでしょう。

そろそろ一年、住まい心地をインタビュー。

  • 夢をカタチにする力 -その45
  • 龍門山を望む家 (平成24年冬竣工)
そろそろ一年、住まい心地をインタビュー。
 ○夜明けと共にめざめる暮らし 
老後を暮らす夫婦二人の所帯。そんなに大きいのはいらないけれど、土地は高台というのが気に入って求めたものだから、立地の利点を活かしたい。それが、一番の希望でした。ぴったりのプランを提案していただき、景色を眺 めて暮らせる気持ちのいい家になりました。 (奥さん)なにかの具合によるのか、山がものすごく近く鮮やかに見える時があるんです。この頃は、5時頃にお日様が昇りはじめる。だから、今日も夜明けの五時に目覚めたの。冬至の時はあの辺から昇っていた…今はあの辺りから…毎日少しづつ、日の出の位置も、山々の表情も違います。この見晴らしの良さと過ごし心地は、命がのびる感じがしています。
 ○我が家の良いところ
今回うちは玄関を2つ造っていただいたし、当初玄関土間の広さは贅沢かなぁ…と思ったけど、仕上がってみるとゆとりがあって気に入っています。前の家では、玄関というのが家族の実用のもので、しかもこんなに広くなかった。こちらでは、サブの玄関を普段使いの専用に設けてもらい、日常の細々とした物をしまえるようになりました。薪ストーブが据わるメインの玄関土間は、常にスッキリと玄関らしくしておけるので、この使い分けは大変良かったです。平屋も…あれだなぁ。やっぱりだんだん、足腰弱ってくるじゃない?上り下りが大変になってくるから、所長(中村伸吾)には、バリアフリーでお願いしますと頼んだんです。ワンフロアで過ごせるのは楽ですね。
 ○これからの楽しみ
東向きなので夏場の高い陽はまず差ささないから、夕涼みのビールがうまい…楽しみです。デッキのテーブル・ベンチなどは、この家の屋根の端材で製作しました。納戸の中などにも、建築中に出た端材を、住み始めてから活用して細工を作りました。同じ材料なので、家とも馴染みがいい。庭の面積が広くなり、最近は休日はもっぱら植栽の植木にかかりっきりだなぁ。まずは春に向けて咲くものを植えました。今は、夏・秋にむけて植え込みの準備中です。四季それぞれの、季節に映えの良いものを植えていきたいなぁと考えています。部屋内からの眺望を大事にしたいし、コンパクトに収まって、賑やかに仕上げたいなという思いがあります。予算をどんどんかけて、プロに任せれば立派に仕上げてくれるだろうけれど、それでは楽しみがない。自分で一本づつ一本づつ植えるのが、私達の今の楽しみです。

改装は大胆に。

  • 夢をカタチにする力 -その44
  • 南紀の台の家の改修 (平成25年春竣工)
改装は大胆に。
 このところ、お部屋の改装の依頼が増えています。今あるものを大切に・・・基本が充分しっかりしたものであるなら、必要に応じて手を入れながら大事に使う・・・というのは日本人の美徳でもあるように思います。改装のポイントは、既成の概念にとらわれず、思いきった気持ちでやりたいことを実現する・・・というところでしょうか。人間一度適応してしまうとなかなかそこから離れにくいものですが、既存の使い勝手や仕上げに縛られていては思いが遂げにくいのも現実です。
 元々は納戸だった二部屋を改装して新しく一つの板間としました。納戸ですから窓は小さく通風も採光も足りません。そこで、思い切って外壁を打ち抜き45センチほど壁を外に出し、そこに桧の天板の机を造り付けました。大きなテーブルの左下にはプリンターや無線ルーターなどを仕舞い込んで扉を付けていますのですっきりと納まっています。ビニールクロスだった壁は珪藻土に塗り直し、天井は既存の丸太梁をあらわしで見せることにして杉板で張り直しました。床は新建材のフローリングだったのですが、冬場がつらい・・・という話を伺っていたので、床下断熱を新たに手厚くして無垢の唐松のエンコウ板で張り直してあります。
 もうここを納戸だったと思う人はいないでしょう。木の香りのあふれる空間で心行くまで生活を楽しんでください。

自分らしくある、それが家づくりの最初の一歩。

  • 夢をカタチにする力 -その43
  • 居間が2階にある住まい (平成24年春竣工)
自分らしくある、それが家づくりの最初の一歩。
 住まいの形はご家族によって大きく変わります。Aのご家族では当然だと思えることも、Bのご家族では不快であったり意外であったりすることは時としてあるものです。
 今回ご紹介する住まいでは居間が2階にあります。敷地の形状や大きな前面道路との関係で、家族が集う居間空間を誰に気兼ねなく過ごせるように・・・と2階に上げる事になったのです。南には大きな吊りベランダを用意して居間の窓は掃き出しにしてあります。2階にあることで道行く人々と視線を合わせることもなく、大きく放たれた窓からは陽光が降り注ぎます。屋根形状を工夫してたくさんのロフトも用意しました。収納の容量アップを図れるのはもちろん、子どもたちの遊び場や書斎としても役立ちます。変化のある空間は単調になりがちな生活に楽しみを与えてくれます。
 それぞれのご家族にはそれぞれの事情があり、思いもニーズもまちまちです。これが正解・・・と言える回答などないのです。自分らしい暮らし方をしっかりと見つめて、それをカタチにした住まいが大きな満足を与えてくれます。自分らしくある・・・それが家づくりの最初の一歩だといえるでしょう。

 時の経つのは早いものです。計画の時には小さかった子どもたちもどんどん大きくなるでしょう。この子たちと気持ちよく過ごしたい・・・とおっしゃっていた奥さんの夢を、ちょっと他所とは違うこの住まいがいつまでもしっかりと受け止めていてくれることを願っています。 

かずまくんちは、呼吸する長期優良住宅です。

  • 夢をカタチにする力 -その42
  • 良守(かずま)くんち (平成23年夏竣工)
かずまくんちは、呼吸する長期優良住宅です。
 長期優良住宅は高気密・高断熱でなければならないと思われているようですが、そうとも限りません。むしろ、木の家では高気密・高断熱の仕様は木の家特有の快適性を阻害したり、住まいの寿命を縮める要因ともなりかねません。
 一般に、断熱性能を高くすると結露の危険性が高まります。そこで、結露を避けるために高気密が必要になるわけです。高気密の住まいを造ってしまうと、湿気は室内からの逃げ場を失いますので、エアコンや強制換気が必要になります。機械効率を上げるためにますます高気密・高断熱の度合いを高め、部屋を小さく区切って・・・という悪循環では人に優しい環境は創れません。多少効率が良くなるからといって、長時間にわたって機械制御が必要な高気密・高断熱の家をエコとは呼べないと思うのです。
 木の家の大きな特徴は湿気を調整できるところ(調湿性)と、熱を蓄えられるところ(蓄熱性)です。たとえ長期優良住宅といえども、木の家である限りは、木の家の特徴を良く発揮できるこしらえが必要です。「良守(かずま)くんち」は家全体で湿気を屋外に排出する仕組みを備え、蓄熱・調湿の役目を果たす自然素材で出来た清々しい空間を持つ、とっても珍しい「呼吸する長期優良住宅」です。

木の家は、人と街と森をつなぐ絆。

  • 夢をカタチにする力 -その41
  • 紀州梅の里 なかた (平成24年春竣工)
木の家は、人と街と森をつなぐ絆。
 住宅では一般的な木造も、少し大きな建物ではコンクリートや鉄骨になってしまい残念に思うことがあります。
 工夫すれば木造で気持ちのよい空間が出来るのに・・・そんな思いをカタチにしたのが田辺市にある「紀州梅の里 なかた」です。
 店舗としての大空間を構築するため特殊になりがちな柱・梁は、一本で大きな材料を用意するのではなく、無理のない寸法の材料を組み合わせて組柱・組梁としました。壁には珪藻土を塗り上げ、天井は和紙貼りとしました。アプローチには梅の木をイメージして斜めに丸太を建て込み、床には金錆の石を貼っています。
 出来上がった空間は、複雑に組まれた柱・梁が森の木々を連想させ、梅の花の形に仕込んだ照明器具とともに訪れる人々を心地よく包み込みます。
 すべての建物は「まちなみ」を構成する最小の要素であり、地域の産業や環境と切り離してはあり得ません。たとえ個人所有の住宅であってもその役割から逃れられませんが、企業や公共の所有する建物・・・不特定多数の訪れる店舗などは尚更です。

 人に気持ち良い空間を構築し、地場産業と緑環境に貢献する「木」の可能性に注目し、紀州材を使った大型店舗のモデルケースを造ろう・・・と決断されたトップに敬意を表します。
そして、人と街と森がますます強い絆で結ばれていくことを願っています。

本当の快適さとは・・・。

  • 夢をカタチにする力 -その40
  • 薪ストーブの家 (平成22年春竣工)
本当の快適さとは・・・。
 冬場は、陽差しが気持ちよく入って、暖房機などなくても暖かく暮らせる家が理想です。しかし、現実はそういうわけにもいきません。エアコンなどは頭がボーッと熱くなるばかりで足元が寒い・・・と、おっしゃる方も多くいます。心地よい暖かみを得るコツは住まい全体をホッコリと暖めてしまうことです。
 私の設計する住まいでは、薪ストーブを選択される方が多くいます。圧倒的な火力で住まい全体を暖めます。もちろん建物の方にも工夫が必要です。しっかりとした外断熱ですっぽりと建物を包み込んでしまいましょう。横方向だけでなく、縦方向にも暖気の通り道を確保しましょう。せっかくの暖気を蓄えることの出来る室内仕上げを施しましょう。
 家の中、どこにいても暖かい空間は思いのほかの快適さを提供します。火は家族の交流を促し、自然と集う空間がそこに出来上がります。薪の調達や火の始末など、やっかいなことも多いのに、皆さんが暖房機として薪ストーブを選択される理由も分かるような気がします。
 また、最近では床暖房や深夜電力型の蓄熱暖房機なども採用されはじめました。いずれも、快適に冬場を過ごすためには効果的な器具です。

 効率を最優先したつもりでビニールクロス貼りの小さな部屋を連ねてみても快適な暮らしは望めません。ここは一つ立ち止まって、家族にとって本当の快適とは何かを考えてみましょう。選択肢は色々とあるものです。